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エッセイSP(スペシャル)

ゴミ袋を運ぶ人

冴木 あさみ

2013年9月 2日

 

 

 

 このたび引っ越しをして生活が大きく変わった。長年住んだ家には物があふれていた。毎月の資源ゴミの日、心を鬼にして思い出の品を処分しようと向かうのだが、懐かしさに浸るだけでまた元の場所へ。それを何年も続けてきた。

 少し前の断捨離ブーム。直後の捨てることではなくときめくものだけに囲まれて暮らしましょうという視点を変えた本も話題になった。波に乗れなかった私だが、引っ越しのお蔭でほとんどの物を処分することができた。断腸の思いだったが、段ボールに詰める重労働を前に、もう全部いらないという投げやりな心境に陥ってしまったのだ。新居を整えながら、手放してしまえば未練はそれほどないことに気付き、今はときめくものに囲まれた生活を送っている。

 そんな体験をした直後、今私は混とんとした職場にいる。職場は障害者の就労支援施設で、主に古い着物の生地を洋服に仕立てたり、小物を作成している。年代物の着物を買い付けたり寄付してもらったり、その数はかなりのものだ。職場の主任であるAさんはいつもゴミ袋を抱えて歩いている。彼女は個人の趣味としても古い着物の収集をしていて、方々に買い付けに出かける。目利きで顔も広いので入手困難なレアものを安く買ってきてくれるのはいいが、困ったことに整理整頓が全くできない。工房のあちらこちらに異種類の生地が山積みになっていて、製作途中の作品がその山の頂に乗っかっている光景は珍しくない。ちょっとしたスペースがあればそこに置き、場所が無ければ床に置き、置きっぱなしで別の事に没頭してしまう。使った物は元へ戻さないからどこに何があるか分からなくなる。よって彼女は一日の四分の一の時間を探し物に費やしている。朝ゴミ袋に詰めた布を持ち込み、帰りは当面要らないものをまたゴミ袋に詰めて帰っていく。その二つの袋の中身の違いが私には判らない。

 家は相当なゴミ屋敷だろうと想像するが、実は結構きれいに暮らしているらしい。定年後ぬれ落ち葉になりがちな男性が多い中、ご主人が自宅で「お片づけ係」という仕事に就き忙しい毎日を送っているのだ。

 今月まで庶務をしていた人が辞職することになり、急きょ私がその仕事を引き継ぐことになった。庶務の主な仕事はAさんの歩いた後の掃除だからねと念を押された。雑然としていることにこれまで目をつぶってくれていた社長も、先日工房に訪れた際そろそろどうにかしろと眉間にしわを寄せて本社へと帰って行った。どうにかなるものなのか、途方に暮れる日々を過ごしている。

 

 

◎プロフィール

さえき あさみ
札幌市在住。障害者就労支援員。人間ウォッチングと街歩きで空想の世界に浸るのが好き。一昔前のサスペンスドラマにはまっている。

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