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エッセイSP(スペシャル)

あなたに伝えたい

冴木 あさみ

2013年10月 7日

 文化庁が2012年度国語に関する世論調査というのを発表した。今回初めてコミュニケーションに関する調査を実施したそうで、会話の際に不快に感じる理由を複数回答で尋ねたとのこと。男性は「言葉遣い」女性は「相手ばかりが話す」というのが最多だった。面白いのが、男女合わせた地域別の統計で、北海道は最も多い順に「会話がかみ合わない」「言葉遣い」「言葉や態度の裏に隠された意図を感じる」と続いたそうだ。
 職場のAさんは元気でおしゃべりで、みんなの人気者。彼女の周りにはいつも人がいて笑いが絶えない。でも彼女と話すとき私は緊張するのだ。彼女の話には主語が無いことが多い。そのため途中から誰の話なのか、何の話なのか分からなくなる。迷路の入り口付近で「誰が?」「つまり、それは…」と、早口の彼女のわずかな息継ぎの間に割り込んで確認するのは至難の業だ。業務上の話に食い違いは許されないので一瞬でも気が抜けない。
 私が日頃感じている疲労感を覚える会話は主に二つある。一つは演説型。すでに会話というキャッチボールは中断され、相手が発言のボールを持ったまま離さない。こういう人は話術が巧みで笑いのツボも外さず、自称「話し上手」に多いが、枝葉が多すぎてどこまで行っても話が終わらない。いっそ壇上でお話ししたら?と言いたくなる。
 もう一つは時系列で話をする人。昨年私の家族が怪我をした。その通報をしてくれた人の第一報。
 「おじさんが旅行中大変なことになったの。ちょうど雪かきした直後の道でさ。きっちり雪かきすると路面がつるつるでしょ?夜だから凍ってるかどうかわからないよね。飲んでたし、気を付けて歩いてなかったらしくて。 ―中略― 思い切り転んでボキッていう音が聞こえたんだって!救急車呼んでもらって…」
 私が真っ先に知りたいことはおじさんが現在どの病院にいるのか、怪我の状態はどうなのか、手術はいつになるのかということ。緊急の場合は起承転結に拘らず結論を先に伝えてほしい。詳しい説明と情景描写は次回に回してくれても一向に差支えない。結起承転転転でよろしい。一生懸命話す相手にうんうんと相槌を打ちながらいらいらする私であった。
 人に伝えるということは難しい。一言足りなくても、逆に多くても誤解が生じる場合がある。語彙も表現方法も多彩な美しい日本語。会話にも「お・も・て・な・し」を意識できたら、伝わる言葉が輝くのではないだろうか。

◎プロフィール

さえき あさみ
札幌市在住。障害者就労支援員。人間ウォッチングと街歩きで空想の世界に浸るのが好き。一昔前のサスペンスドラマにはまっている。

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