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エッセイSP(スペシャル)

手話という言語

冴木 あさみ

2013年11月 5日

 

 

 

 私の勤務している就労支援施設には体や心を患っている人達二十四人が通っている。そのうち聴覚障害者は八人で、全体の三分の一だ。

 手話を学んでみたいと思いながら、聴覚障害者と接する機会がないことを理由に、いつの間にかなおざりになっている人は少なくないだろう。私もその一人だった。それが急転直下、この春転職した職場で八人に出会えるとは。

 入社後、そんな環境でありながら手話ができる職員が一人もいないことに驚いたが、聴覚障害者は口唇術とジェスチャーで大体を把握し、複雑な場面では筆術により確認するのでなんとかなっている。中に二人キーパーソンがいることは心強い。一人は補聴器使用で会話ができる人、もう一人はろうあのご主人を持つ人だ。困った時にはこの二人に通訳をしてもらえるという状況に、職員も甘えている。

 仲が悪いわけではないのに、休憩時間にはどうしても聴覚障害者とそれ以外に分かれてしまう。女性ばかりの職場なのでかしましく、笑い声が絶えない。隣のテーブルでは絶え間なく手をひらひらさせながら静かな笑顔が咲いている。いつしか引き寄せられるように、私はその静かなテーブルの一員になっていた。手話を理解できないのに傍で手の動きをじっと見ている私に、彼女たちは最初戸惑っていた。どう接していいのか…。でもそれは私も同じこと。

 「わたしは あなたと しゅわで はなしを したい」

 私が初めて作った手話の文章だ。

 手話を学びたいという気持ちは直ぐに広まり、その日を境にまだわずかな単語しか知らない私に容赦なく手話で話しかけてくるようになった。声を発せなくても気の強い人も我儘な人も当然いる。年配の三人に囲まれて同時にああだこうだと手を動かされた時、聞こえなくても(うるさいなあ!)と笑ってしまった

 先月、鳥取県議会で手話言語条例の制定が全会一致で可決された。これにより手話は独自の言語体系を有する文化的所産と位置付けられたという。手話を言語と認めるのは世界的な潮流とのことだが、そもそもこれまで言語として認められていなかったことに愕然とした。言語の定義が意思疎通のための手段とするならば、手話は当然言語であって然るべきだ。世界中に言語は五千語あるといわれるが、専門家の間で分類方法に意見が分かれ、その数も定かではないらしい。表情豊かで動きのある手話。なんと美しい言語だろうと日々感動している。

 

 

 

◎プロフィール

札幌市在住。障害者就労支援員。人間ウォッチングと街歩きで空想の世界に浸るのが好き。一昔前のサスペンスドラマにはまっている。

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