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エッセイSP(スペシャル)

聴く・・

たかやま じゅん

2014年8月25日

 先ごろ、「男はつらいよ~寅さん名場面集」と題される3枚のCDがクラウンレーベルからリリースされた。永らくレコードが廃盤のままで、オークションに出るとそれなりの値段が付いていた。
 寅さんのシリーズが流行った40年ほど前は、まだビデオも普及してない時代、耳から映画を聴いていた。映画の中の音楽や台詞の一部が収められたサウンド・トラック盤と呼ばれるレコードのことである。
 時代は今から30年前のこと。かつて存在したユピテルレコードから「これ知っているかい・・・?~懐かしのテレビ・ラジオ主題曲集」シリーズのレコードが出され、この制作を手掛けたのが、友人の篠田徹氏であった。
 子供ごころに口ずさんでいた月光仮面や快傑ハリマオなどの主題歌を、フル編成の楽器を使いオリジナルに近い音で再現したLPは、今でもマニア垂涎だそうな。彼が、テレビ局や作詞・作曲家を訪ねて、音源発掘に汗を流していたのが昨日のことのようだ。
 彼と会う度に「この歌が見つかった。あの歌も入れたい」と盛り上がり、なんと・・私が解説を書く羽目になってしまった。こうして自分の執筆が世に出て、初めて稿料を貰う。以来、上京すると一献傾ける交友が今に至っている。
 今春の電話で「寅さんの映画が45周年を迎えるので、CDの企画を考えている・・」と聞き、寅さんファンとして、あれやこれやの思いが長話となった。暫くすると新聞紙上に、『若い人のCD購入が低迷するなかで、買う習慣のある中高年層の需要を呼び起こそうとするCDが出る』との記事が、話題欄に載っていた。
 ジャケットや解説もレコードの発売時と同じ仕様で復刻され、〝サウンド寅ック盤〟と銘打たれた文字は、コレクターの心をくすぐってくれる。
 改めて聴くと、セリフ回しや音楽だけで風景が伝わり、映像では味わえない音の世界に引き込まれていた。
 寅さんの行く先々は、自分が見た景色と妙に一致していることに気付いた。水のせせらぎや木々の翠、鳥のさえずりはその土地ならではの風と匂いがある。お宮の杜や橋の袂で啖呵売をしている寅さんに遇いたいものだ。
 現在、篠田氏は日本クラウンの邦楽部門で、責任者の要職に就いている。近々の上京の際には時間を取れるとのこと。きっと寅さんや懐かしのヒーローが肴になる違いない。

◎プロフィール

〈このごろ〉押入れにある文献や資料の掃除をする。埃の溜まった表紙が綺麗になると、手に入れた時のことが浮かんできた。

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