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エッセイSP(スペシャル)

こけた・・

たかやまじゅん

2014年11月17日

 この春、友人が山を散策中につまづきあばら骨を折ったと便りがあった。夏には、知り合いから階段で転倒して首を痛めたと聞く。二人に「身体の動きは、今の自分が思うほど付いて来ない」と忠告を貰っていた。
 雪虫の舞うある日、その言葉通りに足下がよろけ身体が傾むくと地面が目の前に迫り、血痕があった。直ぐに周りが応急手当をしてくれ帰宅した。
 休日であったが、家の近くに外科医の詰める夜間診療を息子が見つけた。「後ろに座って!」と彼の運転で奔る。静寂の診療室に入ってきた靴音は若い医師だった。左顔面に裂傷と打撲、おまけに膝と指も打って擦れていた。テキパキと看護婦に指示を出し、患部に手当てが施された。「外見では骨に異常はないと思われるが、念のため整形で診て貰って・・」と言われホッとする。
 翌朝、鏡に写った顔は傷より目の周りに紫色の腫れが凄い。朝一番に町内の整形外科でレントゲンを撮り診療になる。「骨に異常は認められません」の言葉で一安心。「顔は大事だから、跡が残らないように治療しましょう」と言われ「そんないい顔だったかしらん」と思ってしまう。「次は木曜。傷口を触らず目はよく冷やし、もし視覚や視力に変調があれば眼科へ」と告げられると不安がよぎってきた。
 家にはアイスノン枕しかない。冷却シートだと貼り難い。冷蔵庫に保冷剤があった。目を覆うのに丁度よい大きさを選び、眼帯で抑えると独眼竜政宗か柳生十兵衛・・はたまた丹下左膳の気分になる。
 現代は、医療機関で検査でき医薬品を施し、家では食事が供されて看護がある。家人から一週間の禁足が言い渡された。
 直近で、会津の飯盛山に白虎隊の事跡を視てきた。今でいえば中学か高校生、子か孫の世代だ。自身が傷ついてみて、彼らのように薬も食料もなく傷つきながらも川を這い、血を流して山に登れたかどうかいささか心許ない。
 その後、目に異常はなく、傷も回復し始めると退屈の虫が起きる。額に映える白い大きな絆創膏が目立つので、頭にバンダナを巻いた。目を隠すため数年ぶりに、サングラスを出してきた。狐色のランセルだと痣が判り、濃藍のランバンがピッタリであった。これなら紛れもなくシティボーイだ。街で会った友人から「あれっ、そんな格好をした落語の家元がいたぞ!」と言われてしまった。

◎プロフィール

〈このごろ〉どこの蕎麦屋も一味しかない。上京の際、浅草寺門前の「やげん堀本舗」で調合したマイ七味唐辛子を持ち歩いている。

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