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エッセイSP(スペシャル)

物語の世界

冴木 あさみ

2015年2月 2日

 私が子供だった頃、今のように携帯電話もネットもゲームも無い時代。テレビも一家に一台が普通で、夜ともなればチャンネルは家長である父親が主導権を持つ。自室での娯楽といえば読書かラジオくらいのもの。小学校高学年ぐらいから周りには読書好きの友達が多く、図書室は馴染みの場所だった。毎日家で一冊読み切るという学年で成績一番の友達もいて、彼女は家でテレビを付けないという家庭環境だった。
 仲のいい友人達が文学少女だったので、それに比べれば自分の読書量は全く少なく、少ない理由は文字を追うのが遅いからだというのがのちに解った。中学生になった頃から外国文学が好きになり、悩める青春時代は陰々滅々としたロシア文学や哲学にはまった時期もある。さっぱりわけが解らなかったはずなのに難しければ難しいほど快感を覚える自分がいた。
 外国に憧れを抱き、海外文学や映画に没頭していたせいか高校の英語では特に勉強しなくても満点が常。好きこそものの上手なれで、特に例文の暗記は得意で一晩に百例文頭に入れたこともある。残念ながら反比例して理数は苦手で、大学の学部選びは消去法で英文学科へ。大学一年から付き合っていた彼が理学部だった影響か、森羅万象の「何故?」に興味を持ち、理数苦手の私が科学の本を読むようになった。学校の授業のように難しい方程式無しに解説してくれる本はとても面白く、自分の不得手を忘れて理論の世界にはまった。作家を目指しているわけではない。文学を学んでいても、世の中の誰の助けにもならないことに気づき無力感でいっぱいだった。
 時代と共に文学も変わっている気がした。とてつもない世界をストーリー性で引きつける作品が話題になり売れるようになった。日々の何気ない人間の営みを文章で読ませる作品が好きな私は、何でもありの虚構の世界がどうしても馴染めない。小説なんて所詮嘘っぱちの世界だと背を向けてしまった。現実の日々の生活が確固たるもので、物語の世界にしらける自分はつまらない大人になったのかもしれない。品行方正で生真面目が取り柄だけでは、のりしろのない人生と揶揄されても仕様がない。
 何十年も遠ざかっていたフィクションだったが、最近突如として小説を読み始めた。週末は古本屋に行き何冊も買い込み夜が楽しみになった。早めに寝床に入り眠くなるまで物語を読み、その世界に浸りながら眠りにつく。心境の変化なのだろうか。やっと自分の時間を楽しむ余裕と、新しい夢を持てるようになったのも大きいかもしれない。目指すは柔らかな輝きをもった老婦人、かな。

◎プロフィール

さえき あさみ
札幌市在住。福祉事業所勤務。
今年は地面を蹴って羽ばたく年に。
就寝前の読書は最近暫く敬遠していたフィクションの世界に浸っている。

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