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エッセイSP(スペシャル)

浸水

冴木 あさみ

2015年7月 6日

 「歳のせいか夜中に必ずトイレに起きるんだよなあ」
 年配の人との会話の中でしばしば聞かれるフレーズだ。自分を密かに眠り姫と名付けるほど若い頃寝てばかりいた私も、50歳半ばで目覚まし時計不要の早起きが定着した。しかもすっきりと覚醒できるのが嬉しい。誰もが逆らえない老化というネガティブ現象にもちょっとはいいこともある。幸い私は夜中のトイレ談義にはまだ加われないが。
 ある夜、そんな私が珍しくトイレに起きた。前日水分を摂りすぎたのかなと寝ぼけ眼でトイレに一歩踏み込んだ瞬間、水をかけられたかのように目が覚めた。正しくは、かけられたのではなく浸かったのだ。足がぴちゃんと水の中に。濡れた片足を上げたまましばし呆然と水びたしの床を凝視する。異臭は無いので給水タンクから漏れたのかと確認したがそうではないらしい。隣の洗面所もバスルームも異常なし。あれ?微かに水の流れる音が…音を頼りにリビングダイニングに移動した。ダイニングのカーペットを踏むと湿地帯に踏み込んだかのごとくジュワッと水が上がる。キッチン部分は2センチほどの浸水。水音はシンクの下から聞こえるが壁の中なので目視できない。大急ぎで玄関横の元栓を閉めた。
 シューっという水音が止まり少し安堵できたものの、これは単なる序章に過ぎないことに愕然とした。早速マンションの管理会社に電話をして30分ほどで現れた夜勤の係員はただの大男。足が濡れるから靴下を脱いでと言ったら「そうさせていただきます」と、もぞもぞ脱いだ靴下をなんとセンターテーブルの上に並べて置いた。ひとこと言いたいところだが機嫌を損ねては今後の対応にも影響するかもと見て見ぬふり。腹立たしいほど彼は何もせず、事務所に「業者に電話してください」と連絡をしただけで帰って行った。更に40分後。早朝4時半頃業者が登場して、こちらは期待通りに原因となる配管の接続部品の破損を手際よく修理してくれただけではなく、簡単な掃除までして今後のアドバイスもいくつかくれた。
 マンション住まいで一番心配なのが火と水だ。集合住宅は被害が及ぶ範囲が大きくなりやすいので一戸建てよりも気を遣うし注意が必要だ。しかしどうにもならないこともある。壁の中までは確認し難い。
 フローリングの張替えが必要になり、これから保険会社が鑑定に来たり管理会社と連絡をとったり、ああ…フローリングの張替えに何日かかるのか、家具を移動するのかと考えると頭が痛い。不幸中にも幸いはあるもので、冬場でなくて本当によかった。珍しく夜中にトイレに起きたことも運だろう。

◎プロフィール

さえき あさみ
札幌市在住。福祉事業所勤務。
今年は地面を蹴って羽ばたく年に。
就寝前の読書は最近暫く敬遠していたフィクションの世界に浸っている。

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