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エッセイSP(スペシャル)

孤独のグルメ

冴木 あさみ

2016年2月 1日

 食を楽しめるというのはいい。なにより健康であることの証であるし、美味しいと感じている時間、人は苛立ちやストレスから解放される。気の置けない人との楽しい会食であれば何を食べるかなど結構気にならないものだ。大皿を囲んでワイワイ盛り上がった後など、美味しかったけど何を食べたっけ?という場合もある。店の雰囲気に浸りつつじっくりと味を堪能するには、やはり一人食に限る。
 タレントの妙にテンションの高いグルメ番組も飽き飽きし、飲み歩き番組の『酒場放浪記』にはまった時期もあった。でも毎回似たような肴にマンネリ化してきた感もある。そこへきて新しいタイプのグルメ番組に出会うことに。それが『孤独のグルメ』だ。原作は漫画。主人公井之頭五郎を演じるのは長身でスリムな男優、松重豊。「誰にも邪魔されず、気を遣わずものを食べるという孤高の行為。それが最高の癒しといえるのだ。」というイントロの哲学めいたフレーズがいい。
 営業マンの井之頭は毎回「腹が減った」と突然食欲のスイッチが入り、その日その時に自分の胃袋の要求を満たすべく店を探す。下戸という設定がまたにくい。ウーロン茶を飲みながらチョイスしたメニューを豪快に平らげていくドラマ仕立てのグルメ番組だ。実在する店が舞台で、店主などに俳優や女優が扮しているのが面白い。といっても僅かな会話以外台詞はほとんどない。自由で誰にも気を遣わない心の声を本人のナレーションでつなげていく。俳優の力の見せ所。年季の入った渋い中年俳優の無言の演技はさすがである。
 百八十八センチという身長で痩身の彼は、実は小食らしいが『孤独のグルメ』では二人分以上の量を注文し、本当に完食しているようだ。最初はゆっくりと味わい、食レポも決して忘れていない。途中からテンポのいい音楽と共にギアチェンジし、わっしわっしと戦いのように食べ進める。背筋を伸ばし皿を口に持って行きかき込む姿も、次から次へと口に放り込む食べ方も、スープをちゅるりと音を立てて吸ってしまう部分も、それほど下品に感じさないのはなぜだろう。どこか食べ盛りの息子のイメージと重なる。
 このドラマのもう一つの楽しみは原作者の久住昌之が番組の最後に登場し、舞台となった店で本物の店主と会話を交えつつ食事をする場面で、アルコール付きの二次会といった雰囲気だ。酒を井戸水、ビールを麦ジュースなどと言って何故か後ろめたそうに笑うのがかわいい。スキンヘッドのオジサンを可愛いだなんて…、私もすっかり『孤独のグルメ』に酔っている。

◎プロフィール

さえき あさみ
札幌大通り公園の夜景が見える席で、たちの天ぷらを銘酒でいただく。先週末の私の孤独のグルメ。

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