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エッセイSP(スペシャル)

トラウマ・・

たかやまじゅん

2018年1月29日

 3年前、外出先でステップを踏み外し転けてしまった。骨折はしなかったものの脱臼した指のマッサージで、1年近く整形外科に通う。階段を下り始めるとその光景が甦り、以後はエスカレーターやエレベーターを利用する頻度が多くなっていた。
 昨年、雪解け道で足を滑らせドスンと尻餅をつき、尾骶骨から背中にかけてズキ~ンともの凄い衝撃が走り、件の整形外科へ行く。レントゲン検査では、骨に異常はなく安心したのだが、「齢を重ねると身体の筋肉が衰え、骨折を免れたとしても痛みが治まるまで日にちを要する」と担当医から告げられた。
 リハビリに通い間もなく1年を迎える。指で通院していた当時は新人だったトレーナーが、自宅で出来る筋力トレーニングの仕方を教えてくれた。すっかりベテランの域に達したのに接して、歳月の流れを感じてくる。
 この冬は、積雪が観測史上でも記録的な早さで冷え込みも厳しく、年末の道路状況は悪化をたどり、路面は滑り易い状態になっていた。「例年に比べ、路上で転倒して運ばれてくる急患が多い」とトレーナーの話にあった。毎朝のニュースが、全国的に広範囲な大雪情報を告げており、年々雪の降り方や寒さも変わってきたのだろうか。
 夕暮れ時から横断歩道はブラックアイスバーンになる。恐る恐る道路に足を踏み出すのだが、渡り切らないうちに歩行者用の信号機が点滅をし始め、焦ってしまう。健脚を自認していた私だが、ツルっと足もとを取られそうになると二つのアクシデントが頭の中を過り、何とも言えない恐怖感が湧いてきて、知らず知らずのうちに不安な感じが、心の中でトラウマになってしまったようだ。
 少し前まで、足元が覚束かないことや道を歩いていて怪我をするなどあり得ないと思っていた。10年ほど前に我が家を新築した時、高齢の義母が困らないよう玄関や風呂場、階段など至る所につかまり棒や手すりを設けた。冗談半分に、「よっこらしょ棒」と名付けたのを、昨今は自分が重宝している。
 温暖な湘南生まれの私が北国に居を構え、冬を越す度に人々の辛抱強さを知った。日課としていた除雪は、息子が肩代わりするようになってきた。年が明け、空の青さに鳥のさえずりを耳にする。あとふた月・・春よ、来い。早く、来い。

◎プロフィール

〈このごろ〉時代劇が好きな私の一番は忠臣蔵。12月に新橋演舞場で観た舟木一夫さんの公演は、忠臣蔵の金字塔と呼ぶに相応しい舞台であった。

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