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エッセイSP(スペシャル)

せっかくのカツ丼

梅津 邦博

2018年6月11日

 食べ物にも感謝していただかなくてはならず、場合によっては我慢も必要なことだってあるのだ。しかしまたあるところで気になることがあっていかがなものかなとも思ってしまう。感謝が基本だが、疑問も発展のためには欠かせないのではないか。
 ランチタイムで賑わっている某スペースで「かつ丼」を注文して食べた。ぼくはかつ丼についていくつか書いているせいか、普段からよく食べているのだろうと思われているのかも知れないが、そうではない。カロリーが高いからか案外3カ月に一回くらいしか食べていないのではないか。だから内心、こう見えても実はスマートな体型⁉なのだと思うことにしている。丼物については、玉子丼、親子丼、天丼、鉄火丼、海鮮丼、豚丼ほかいろいろとあるが、ぼくとしてはなんといっても若さと元気のカツ丼がいちばん魅力的で食欲をそそるところがあっていいのだ。見た目にも楽しさや嬉しさや力強さなどがあふれているような感じがするところが良い。
 そこでその日ひさしぶりに注文して食べたが、出てきた時から不満だった。それなりには旨かったが気分的には物足りなかった。価格は750円なのだが、丼物として量的なところはまぁいいとしても、脇というものがひとつもない。味噌汁に漬物、そしてお茶さえもないのだった。
 せっかくの…ひさしぶりの…カツ丼なのだ! なんということか。カツ丼というものを甘く見ているというか、ナメているとしか思えないのだ。カツ丼というものに対する哲学性も感じられないのだ。カツ丼について論じるとしたら、少なくともA4紙3枚くらいは書かなくてはならないほどの世界があるのだよ。そういったことがわかっていないからこそ、スペースで出すカツ丼はこの程度でいいのだと思っているのではないか。庶民性あふれる料理で750円は安いと感じさせているのかも知れないが、脇がないためにかえって高く感じてならない。お客様のために地域のためになどと思っているのかも知れないが、単なる掛け声でしかないということになる。実態は世界がないただ単に調理しただけのシロモノでしかないのではないか。
 やはりカツ丼の旨さに舌鼓を打ちつつ、香の物をつまみ、味噌汁を頂く。そういったところからさらに納得しつつお茶をすすることで満足感というものが生じてゆくのではなかったか。そんなリズムが必要なのだ。

◎プロフィール

帯広市出身。自営業。文筆家。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。

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