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エッセイSP(スペシャル)

海の日の裏側で

梅津 邦博

2018年8月13日

 7月16日、海の日。久し振りに晴れて、沈んでいた気持ちも少しは明るくなってきたのか。夕暮れ時、日中に続いて陽射しを更に浴びたくてふたたび街へと歩く。雲もかなり消えて青空が広がっていた。西日の方角を見ると、やはりどことなく寂しくも感じる。北国の短い夏が、6月7月の曇りと雨の日々に悩まされてさらに短くなっていることに、物足りなさが心の襞に張り付いている。
 風も強く、いつの頃からなのか、年間通して風が強くなってきているような気がしてならない。青い空を、流れる雲を、風に揺れる樹々の枝葉を、と眺めていると世界の裏側に潜むものに暗澹たる気がしてならない。年々、日本で世界各地で災害が増えている。過日、西日本で甚大な「西日本豪雨」が発生し、多くの命や家屋が失われてしまった。影響を受けやすく気の弱いぼくは、こんな時に街へ出かけていいのかと後ろ暗い気持ちもしているが、仕方がない。とにかく飲まずにいられない。
 駅を通って街中へ行く。前日までの5日間、「国際農業機械展」が帯広市郊外で開催され、多くの農業者や団体および海外からも出店するメーカー、そして観光客などで夜の街は賑わっていた。連休最終日ゆえに人通りは少ないが、夏の夜の熱気はそれなりにある。でも、行こうと思っていた店はどこも休みだった。どこか空いていないかと歩く。ゆるやかな風の中、ドアが解放されていて昭和の雰囲気がある焼肉店に入った。明るく元気で物腰が柔らかそうな男性スタッフが来て、ラム肉を注文すると、「焼くのは私がやりますので」と言ってくれたので任せる。
 歩いている時にちょっとしたフレーズが湧いていたのを、ショルダーバッグからチラシのメモ用紙を取り出してテーブルでペンをカリカリと走らせる。煙がもうもうと立ち込めているが、忘れないうちに書き留めておかなくてはならない。
 ジンギスカン鍋の下部周りにモヤシと刻んだ玉ねぎを敷いたのを、コンロに置かれて弱火に設定した。トレーに乗せたラム肉の小さめのブロック肉を持ってきて、彼は鍋の頂点に置き、トングとナイフでジャッ、ジャッ、ジャッ、と一口大くらいに切り分ける。メモをしている紙に、焼ける脂が小さな点のようにピッ、ピッ、と跳ねてシミになる。5~6行ほど書き終えて、生ビールと肉に取りかかる。ふりむくと外はまだ明るい夕暮れだ。ときどき人々がそぞろ歩いている。もう夏は終わろうとしているのだろうか。
 避難して濁流に家が流された人たちのことを思うと、たまらない。北海道は災害が少ないせいか、人々から緊迫感が感じられない。食べ終えてすぐに帰って行った。

◎プロフィール

帯広市出身。自営業。文筆家。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。

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