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エッセイSP(スペシャル)

ポカか?老化か?不親切?

冴木 あさみ

2018年9月 3日

 びっしりと店が並ぶ地下街を歩いていた。一瞬「七七〇円」の文字が目に入る。誰もが知るショップの店頭。シックな色合いのTシャツが棚の上で整然と並んでいる。二、三歩過ぎたところで踵を返した。
 この店はナチュラル感を前面に出した商品が多く、綿・麻・シルクに拘る私はたまに利用している。白い七分丈が一枚あれば年中活用できる。七七〇円とは滅多にお目に係れない数字。手に取ると綿一〇〇%で薄くしなやかな手触りで、そのままレジへ直行。
 リュックの底から財布を取り出そうと四苦八苦している間に店員がバーコードを読み取る。ピッ。
「一四九〇円です」
 リュックの内部を探る手が止まった。
「え、七七〇円では?」
「あ、七七〇円は二種類だけなんです~。これは一四九〇円になっております。キャンセルしますかぁ?」
 よどみない話し方。値段の勘違いをした客は私だけではないと確信する。しかも即座に「キャンセルしますか?」とは、なんとも不愉快。もちろんキャンセルをした。正直一四九〇円でも十分お買い得だと思う。商品としてとても気に入った。しかし、この店員の接客が気に入らない。それ以上に、価格表示の不親切さはこの企業への不信感へとシフトした。店を出るとき大きな看板を確かめた。2種類の型以外は一四九〇円ということがささやかに書かれている。落ち着いてじっくり読めば正しく読める。
 ドラッグストアでリップクリームを購入した時のこと。三八〇円の値札の列から取った商品をレジで七五〇円と請求された。面倒でそのまま支払った。私が商品名もしっかり確認すべきだったのだ。いや、待て待て。値札の後ろに行儀よく整列していたのだ。どうして疑おう。
文字が小さいと言えば、昨日の件もそうだ。香のいい洗剤を買った。湿度の高い日の部屋干しが気になったからだ。見慣れないボトルを手に、洗濯機の前ではたと私は考えた。
(これは…洗剤ではなく柔軟剤なのでは)
 確かめずうっかりミスを犯したのか、ボトルをぐるぐるひっくり返すも明確な柔軟剤の表示は無い。テレビコマーシャルをいくつか思い浮かべる。音楽と俳優の顔しか思い出せない。めがねをかける。わざわざ読まんでもいいと言わんばかりの極小文字を並べた【使用法】にやっと柔軟剤の文字を見つける。
 高齢化社会は急速に進む。不本意ながら誰もが注意力、視力、判断力が劣ってくる。世の中にそんな人達がうじゃうじゃあふれるのだ。企業もあらゆる面でのバリアフリーに尽力してほしい。

◎プロフィール

源氏物語を読んだことはない。でも解説書はとても面白い。平安の時代を覗いてみたい。

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