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エッセイSP(スペシャル)

無常の風

冴木 あさみ

2018年10月 1日

 著名人の訃報が相次いでいる。特に芸能人はテレビで目にする機会が多いぶん喪失感が大きい。9月にお亡くなりになった樹木希林さん。全身がんと公表するも、ますます精力的な活動に(まだまだ大丈夫だろう)と多くの人が思っていたのではなかろうか。この人に代わる個性的な名脇役には当分お目にかかれないだろう。8月に亡くなられた菅井きんさんしかり。今後は時々テレビで在りし日の姿を拝見させていただくしかない。
 樹木さんは生前整理をしていたとのこと。高齢者の増加に伴い、元気なうちに身の回りの整理をする「終活」が注目されている。持ち物、お金、葬儀や墓のことなどを明確に整理するにとどまらず、遺影の準備に入念な人も増えてきたらしい。葬儀の参列者に自分の一番美しい姿を見てもらいたい、そして心に焼き付けてほしい。そう、芸能人の葬儀のように…。
 女性はいくつになっても女心を忘れない。メイクさんに整えてもらい、プロのカメラマンの手にかかればもう「この人誰?」と目を疑うほど美しい作品が出来上がる。ただ、生前の雰囲気の片鱗も残さずしわのない顔で祭壇上から微笑まれたら、彼女との思い出は走馬灯のようにスムーズに回れはしないだろう。でも「死」という、場合によってはタブーに捉えられる問題を、家族や気の置けない仲間と話題にできる時代になったのはいいかもしれない。これまで様々な葬儀に参列し感じることも多かったのだろう。自分の人生だもの、最期も自分でプロデュースしたいという気持ちには共感できる。
 終活前に突然の事故や災害によって生命が断たれる場合はそうはいかない。今回の胆振東部地震でも四十一人の尊い命が奪われた。本人たちも予期せずに。
 9月6日の夜。ベランダに出て電気の復旧のめどの立たない外の様子を伺っていた。死んだような街。けれど、見上げればそこには美しい星空が。札幌の空にもこんなにたくさんの星が瞬いているんだなあと飽きることなく眺めていた。しばしば消防車や救急車のサイレンが鳴り響く。救急車を必要とする人がいる一方で、静謐な夜に佇む今の自分の幸いに感謝した。地球上でどんなに悲惨なことが起ころうと、時は止まることなく地球は周り続け、心が救われる夜もあれば、無情な朝もある。
 生命が誕生して以来、その生命体がどれほどの進化を遂げても、生まれては死滅するという自然の摂理に逆らえるものはなかった。死は誰にも訪れる。それまでの時間をどう過ごせるだろう。今を精一杯生きるとはどういうことなのだろう。考えることの多い9月だった。

◎プロフィール

さえき あさみ
外国人の姿が見えないオータムフェストだった。元気で賑やかなアジア各国からの団体さんがいないと活気も出ない。

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