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エッセイSP(スペシャル)

哀しく寂しい日々

梅津 邦博

2018年11月12日

 自覚症状もなかったのに心臓に問題が発覚し、ドクターから、
 「知らないでいたら、そのうち突然向こうの世界へ行ってしまうところでしたよ」
 と言われた。
 大手術をして、麻酔から覚めるとICUにいた。痛さとつらさにぐったりとしていた。4日目に一般病棟へ移り、16日目に退院した。
 こんなことになるなどと思ってもいなかっただけに、正直なところショックだった。そして「2時間半くらいの手術」と聞いていたので8日もすると退院出来るだろうと勝手に思い込んでいたのだが、そんな程度のことではすまなかった。精神的にも肉体的にも負荷がかかっていて、たまらなかったのである。
 帰宅して静養していたが、寝返りを打とうとすると上半身や患部が激しく痛んで呻いてならない。呼吸を整えて一つひとつとゆっくり動くのだ。
 誰かに電話をして話でもと思ったところで、弱音が出てきてどうしようもないだろう。
 「大変だろうけれど、頑張らなくてはならないんですよ。仕方がない。あなたが心を落ち着けて何とか前向きにやってゆくしかないのです」と言われるだけだ。
 己の惨めさにどうしようもなくなさけない思いがした。

 やはり日一日と何かが違う。少しずつ良い方に向かってきているのを感じる。顔の中、頭の中、気が確りしてきているようなのだ。
 術後、すでに40日が経っていた。ICUや一般病棟でのこと、帰宅してからも痛さやつらさに悩まされてきたことなどが薄れはじめてきている。それらのことは忘れないようにしたいと思っているのだが、出来事は過ぎてゆくもので、自分を横目に徐々に遠くへ去って行こうとしているのだった。いつまでもこうしてはいられない。早く仕事に復帰しなくてはならない。
 今年は母親が3月と4月の2回にかけて心臓血管カテーテル検査手術を受けた。予備知識も何も知らないぼくは、どうなるのかと極度に緊張してオロオロしていた。無事に終わったと思ったら、今夏は天候不順で雨の日が多かった。農業者宅へ営業に伺ってもむずかしい日々がつづいていた。ようやく秋を迎えてこれからと思っていた矢先、今度はぼく自身に思いもよらぬことが発覚して、入院手術を余儀なくされたのだった。
 とうとう今年もあと2カ月を切った。とにかく仕事をしなくてはならない。徐々にペースを上げて行っている。落ち込んでなどいられない。

◎プロフィール

帯広市出身。自営業。文筆家。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。趣味/映画・街歩き・旅・自然光景鑑賞。

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