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エッセイSP(スペシャル)

春の面接

冴木 あさみ

2019年4月 1日

 世の中人手不足が深刻な問題となっている。
 私の勤める福祉事業所でも年明け早々職員を募集していたが、全く動きが無かった。特に調理員のパートの求人。週2~3日、一日4時間程度。調理資格のない普通の主婦で結構。昼過ぎまでの時間をちょっと手伝ってくれる気持ちで誰か来てくれないものか? でも、時間のある人はしっかり働きたいようで、提示した労働時間は中途半端なものなのかもしれない。
 現在は二人体制で週五日間の事業所内の食事提供に従事してもらっている。両者とも六十を過ぎている。子供の理由によるドタキャンはないので助かっているものの、それぞれに年老いた家族や親族を抱えているので、週3~4日の勤務が楽勝というわけでもない。勤務以外の日は自分の通院に加え姉の病院の付き添いがあったり、遠い地に暮らす兄弟に会いに行くにために一週間の休暇を要したりする。休む方は心苦しく、連続勤務を強いられる方は身体が辛い。職場では当然ありうるシチュエーションではあるが、何しろ年が年だ。二人とも一日ずつ勤務を減らしたいという。
 バランスのとれた美味しい家庭料理を作ってくれるので、事業所としては出来るだけ長く働いてほしい。二人の負担軽減と人員の安定のために一人補充する事にしたのだ。
 春は人が動く時期。雪解けと共になにか始めたいと思う人も多いだろう。三月も半ばを過ぎてやっと応募の連絡がポツポツ入り始めた。
 四人ほどの履歴書を受け取り、三人の面接を行い、幸いなことに一人の採用が決まった。
 これまで様々な人と面接をしてきたが、世の中いろんな人がいるものだとつくづく思う。「大丈夫!できます!やります!頑張ります!」
 ハイテンションな人の頭上には暗雲が見える。案の定、数時間後電話で「やっぱり止めます」と言い訳を聞く羽目に。市販の履歴書の欄が足りないほど、数か月ごとに転職を繰り返している六十代の男性。老後は大丈夫なのか。面接の日時を約束しても連絡もなしに来ない人もいた。就労以前の問題ではなかろうか。
 人事はタイミングと運という人智に及ばない不思議な力が働いている気がしてならない。得体のしれない何かに引き寄せられる。ご縁というものがこれなのだろう。採用した後に何かが誰かと繋がっていることを知り、ゾワッと鳥肌が立った経験は一度や二度ではない。
 あとひと月で新しい元号になる。それで自分がどうなるわけではないけれど、何かが始まる時のちょっとした緊張感とワクワク感は、遠い入学式の日の気持ちを思い出させてくれる。一体何十年前の?

◎プロフィール

●作者近況
スタッフ数人が新たに加わりほっとした三月。いい働きぶりに期待も膨らみ、新年度のスタートが順調であることに感謝。

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