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エッセイSP(スペシャル)

愛でる・・

たかやまじゅん

2019年4月15日

 春になると思い出すのは、小学校の教科書に載った〝さいた さいた さくらが さいた〟である。校舎が小田原城二の丸跡に建ち、入学式でお堀に映える石垣の桜を眺めた日は、半世紀以上も前のことだ。
 社会人として最初の勤務地は東京になった。4月8日の創立記念式典後は、先輩に連れられ新宿御苑で桜の下に陣取り、社章の花椿をあしらった記念のビスケットを味わいながら話に花が咲く。やがて赴任先やリタイア後に旅のつれづれに愛でた桜は、私が重ねる歳月に彩りを添えてくれた。
 桜は武士の潔さに喩えられるのだが、江戸時代は、敵が攻めてきた場合、防御の妨げとなるので植えなかったそうな。明治期の廃城令で全国の城郭が取り壊され、遺った土塁や石垣の損壊を防ぐため、根を張り見栄えの好い桜が選ばれたと物の本に書かれている。
 最近は絶景スポットを集めた写真集も多く、桜の代名詞と言えばお城であり、特集した雑誌が出た。ページをめくると国宝の城を始め名城が桜色に染まっていた。姫路城などの大城郭もさることながら、以前に訪れた丸岡城は桜の中に浮かぶ天守閣が印象深い。函館で五稜郭に隣接するタワーから見下ろす桜は、壮観のひとことに尽きるだろう。
 かつて単身時代に名古屋城で見た桜は、お濠に触れそうな枝ぶりが心に残る。連休で帰札するとこちらの開花が始まり、周囲に「二回も桜が・・」と自慢したものだった。
 早咲きとして名高い伊豆の河津桜が、京都市内にあると識った。小唄の文句ではないが「梅は咲いたか 桜はまだかいな・・」とウメとサクラの両方を求めて、3月中旬に京都を目指した。
 今年は早くから暖かさが続き、月初めには北野天満宮を始め城南宮など梅の名所はことごとく満開の情報で、七分咲きなら見頃になると期待をしていた。ところが、京都駅に着くと行き交う人たちは、一様にマフラーと手袋に厚手のコートではないか・・風の冷たさが家を出た時と同じで、京都の梅も背を丸め縮こまってしまう寒さだ。
 お目当ての河津桜は、堀川に架かる一条戻り橋の袂で見事に咲き誇り、三条大橋西詰に建つ弥次喜多像の並びに咲く桜が、微笑むように私を迎えてくれた。
 間もなく北海道で桜が花開くと、今年も二度、桜を愛でることになる。

◎プロフィール

〈このごろ〉スーパーマンやバットマンが〝アメリカ正義同盟〟を結成している。月光仮面や七色仮面は〝ニッポン正義同盟〟を作らないのだろうか・・

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