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エッセイSP(スペシャル)

44年ぶりの再会

梅津 邦博

2019年5月13日

 今年は全国的に寒い春で、4月なのに東京も肌寒かった。その日、かつて東京時代の会社仲間であるマツザワ君と共に北千住駅に着いた。待ち合わせの44年ぶりに会う彼はどこにいるのかと探し回る。マツザワが右往左往しつつ彼と携帯で話しながら一緒にあちこち走り、ようやくわかったらしく向かうと、「あ、いた!」と先に気付いて手を上げ、ぼくも(あぁ、ナイトウ君だ)と向かった。
 「オォ、どうもお久しぶりです」「ウメヅさん。お元気ですか」
 44年ぶりを一気に縮めた瞬間だった。それぞれ握手を交わした。長身の彼はブルーグレーシャツの上にグレーのニットジャケット、ベージュの綿パンツとブラウンサドル型革靴というスタイルである。スーツファッションの仕事に就いているだけにダンディでもある。
 何処へ行こうかと周囲を見回し、近くの飲食店ビル内の居酒屋に入り、個室に案内された。生ビールで乾杯となり、深呼吸した。どこか素朴な北欧人風にも見える顔の懐かしい彼は、いまどんなふうなのかと思っていたが、表情も雰囲気も変化していた。当時は長めの茶色っぽい髪だったのが少し短かく白っぽいグレーふうになり、当時からも人を観る瞳をしているが同時に穏やかな表情の眼になって、全体的にロマンスグレー風なのだ。
 「ずいぶんイイ男になったんだねぇ、びっくりしたな…」
 彼は笑みを浮かべていた。マツザワも、「いい齢の取り方をしてきたんですね」と感嘆する。
 3人とも当時の会社であるタキノヤの話になってゆく。いろんなことがあったこと、仲間の消息、その後会社が解散整理した経緯、そしてそれぞれの人生についての出来事を話しした。ぼくは十勝に帰郷して家業を継いで上手くいかなかったがその後なんとかやってきたこと。マツザワはいくつか転職した後に介護タクシーを起業して忙しい話。ナイトウは、子どもの頃のこと、かつてのタキノヤ時代そして同業である今の会社における仕事と社員たちとの向き合い方など。

 懐かしさと共にナイトウ氏の存在は際立っていた。上半身を少し横にしながら話をする姿には、自分の眼の前の空間を見つつ話しているように感じられる。その空間には、郷里の福井で幼年の頃に病気で片脚が少し不自由になったためにいじめられていたこと、また母親のこと、ぼくが東京を去ってから今日までの同じ44年間における人生の出来事など、さまざまなことが秘められているのではなかったか。そんな彼には、人として生きてきて哀しさや厳しさもあったであろうということが静かに生きる力にもなっているように感じられてならない。
 皆、濃い話だった。ぼくの東京の夜は心に明かりが灯っていたのだった。

◎プロフィール

帯広市出身。自営業。文筆家。趣味/映画・街歩き・旅・自然光景鑑賞。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。

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