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エッセイSP(スペシャル)

赴任・・

たかやまじゅん

2019年5月20日

 私が住んだ所は転勤先を含め数か所ある。歳月が流れそれぞれの風景に懐かしさを覚えるようになった。
 天気予報で見知った地名を見ると、「暑そうだ、あの人は元気だろうか」とつぶやき、逆に「連日の雪マーク、大変だろうな」と思ってくれる人も少なくない。こうして各地での出逢いは、私の心の中に一コマ一コマとして遺り、中でも二つの場所には格別の思いを持っている。
 この春から朝のテレビドラマ『なつぞら』は十勝が舞台となった。悠久の大地とお国訛りを耳にすると妙に懐かしさを覚え、日に3回も観てしまう。だが、帯広に赴任した当初の私は、東京の暮らしから抜け切れずにいた。やがて周囲に溶け込むに連れて自然の驚異と神々しさ、四季の彩りや大地の恵みを識る。真冬には、帯広ならではの極寒も体感した。
 防風林の向こうに沈むキラキラ光る夕陽を眼にして車を止め、いつしかあぜ道に佇んだ情景はいまも浮かぶ。かれこれ8年の間に多くの知己を得て、帯広を離れる日は盛大な宴を開いてくれた。毎月こうして綴れるのは、この繫がりによるものだ。
 4月中旬、北海道が20℃を超える暑さとなり、丁度訪れた名古屋の気温はそれよりも高くなっていた。慌ててジャケットを脱ぐが、歩くだけで汗が噴き出してきた。ここに住んでいたのは20年も前だが、尾張の歴史や文化については、人一倍の探求をしている。まして8年に及ぶ単身赴任生活は一段と印象深い。
 その頃に住んでいた覚王山にある日泰寺は、日本とタイ王国の友好として建てられた大伽藍で、どの宗派にも属さず19の宗派が3年交代で運営に携わっていた。毎月21日は弘法大師の縁日として早朝からお年寄りが集まり、道端に並ぶ露店の賑わいは名古屋で風物詩の一つに数えられる。
 久しぶりで参詣する機会に恵まれた。以前に比べ行き交う人たちは家族連れが多い。あの頃、毎晩と言っていいほど通った参道にある「うどんの玉屋」で、昼食を摂ろうとのれんを潜った。そこには先代女将の母さんと3代目の隆ちゃん夫婦に4代目若夫婦の立ち働く姿がある。まるで我が家に帰ってきたような安心感が湧いてくるのだった。
 それぞれの赴任先で過ごした風景は、私の四半世紀を満たす。だが、やはり第一は生まれ故郷に他ならない。
 さあ・・・、来週は小田原の景色を見てこよう。

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