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エッセイSP(スペシャル)

あなたは国の代表です

冴木 あさみ

2019年6月 3日

 記録に残る猛暑もあったけれど、札幌は観光シーズンがスタートし、連日大型バスがテレビ塔付近を行き来している。
 過日大通り公園等で開催された『さっぽろライラックまつり』は大盛況で幕を下ろした。私の勤める福祉施設でも三日間販売会をさせていただき、多くの方々と交流を持ち、販売とPRができた。屋外の催し物は天気次第。まだ慣れない紫外線による疲労感は夜の一杯のビールで軽く吹き飛ぶ。よしっ、ビールの季節だ。
 外国人観光客も多い札幌の街。年に数回行っている大きな販売会の前は、ひそかに個人的な準備も行う。崩壊した英語の感覚を1wordでも取り戻そうと、埃をかぶった本を取り出す。中学生レベルの英語で書かれたエッセイや短編、そして英訳された漫画本。漫画はほぼ日常会話で成り立っているので、翻訳が正しければ生きた英語を学べるのだ。
 というわけで、半年ぶりで外国人の接客をした。今年は特に様々な国の人と話せた。韓国、台湾、シンガポール、中国(らしきグループ)、ベトナム、タイ、米国ハワイ。着物の再利用で様々な商品を製作しているので、和のテイストが強く、しかもシルク素材なので外国人にもウケるのだろう。
 ある国の女性が執拗に値切ってきた。一九○○円の品を少しまけてという。事業所の看板商品なので瑕疵が無い限り値引きなし。「底値なので…ごめんね」と言っても、ぐいぐい食い下がる。右にいたと思ったら左に回り「百円まけて!」どうしてもそれが欲しいようで手に握ったまま十五分ほど他の商品を見がてら「安くして」とアタック。執念の百円。「いいよー、あんたの勝ち」とウインクでもしたいところだが、途切れないお客様の中でOKしたら「私も」「私も!」という状況になりかねない。交渉も度を過ぎると駆け引きの楽しみが失せてしまう。最終的に定価でご購入いただいたが、同伴者らと満足そうな笑顔で帰って行った。
 教育や歴史、環境、宗教等による国民性というものはあるが、最終的には個が主体である。どの国にも控えめな人もいれば積極的な人もいる。初めて接する国の人の場合、その人の言動がそのまま出身国の特性と捉えられがちなのは言うまでもない。似たような印象が度重なれば確信となる。
「海外では、あなたは日本の代表者だと思って行動しなさい」
 誰に言われたのか。世界に恥じない国際人の養成に躍起になっていた頃の日本のスローガンだったのか。覚えていないが、いつも私の頭の中にある。時代や世界中どの国にも通用する普遍の教示だろう。卓越した最高学府を出ていても、それが分からない人もいるようだが。

◎プロフィール

作者近況
さえき あさみ
もっと価格を上げなさいと言うお得意様。安くていい商品だから買うのよと言う固定客。商いって難しい。

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