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エッセイSP(スペシャル)

仏・伊合作映画「太陽がいっぱい」

梅津 邦博

2019年7月 8日

 昔から映画が好きで、20~30代の頃は土日ともなれば映画館へ通い、年間80本以上観ていた。
 小学4年生の時、家にはまだテレビがなかった頃で町内の2年先輩の家へよく観に行っていた。そんなある日、レコードプレイヤーというもので初めてレコードを聞いた。それは映画音楽で美しい曲に感じ入ってしまった。1960年仏・伊合作映画「太陽がいっぱい」のテーマ曲で、言わずと知れたフランスの俳優アラン・ドロン主演である。
 その映画を初めて観たのは17歳の頃、当時の帯広銀映だったかのリバイバル上映である。テーマ曲に感化されていたせいもあってかとてもいい作品で感動を覚え、その日3回連続して観たのだった。
 監督は名匠ルネ・クレマン。この作品はあらゆることが描かれて完成度も高い。男と女の愛と欲望と哀しみ、優れたストーリー性、太陽と青い海とクルーザーヨット、ファッションや料理や調度品などのディテール、街並みや海岸などのロケーション設定、カメラワーク、どれをとっても魅力的だがディレッタンティズムではない。そして映像世界に流れるテーマ曲が情景を盛り上げている。ドロンの演技はとても印象的だった。舵を回している時の表情は作品のテーマそのものである。なんといってもラストシーンがあまりにも鮮烈で衝撃的で、それは美しいくらいに哀しくてならなかった。

 東京時代にはあちこちの海へ島へと旅をし、舞台や内容は違っても海と「太陽がいっぱい」はいつも心にあった。銀青色の空から輝く金色の光を浴び続けていると、意識が目眩を覚えているような気がしてくる。光は、何かを溶かして何かを浮き立たせているような気がして、自らのどうしようもなかった不器用な青春の哀しさも、また何かの弾む思いもあぶりだして煽ってくるのだった。強烈な陽射しがふりそそいでいる時、街を歩いてビルの谷間から陽が射してきた時など、頭にテーマ曲がリピートしてくる。また仕事で車を走らせている時や何か満ち足りていない時とか気分転換だとかの折には、CDを聴いている。街中で、カフェかレストランの前がガラス張りで外界が見渡せて陽射しが入るような店であれば、ワインかラム酒でもゆっくりと飲みながら曲を聴くのがベストだと思っている。ぼくにとって陽が射さない日はどんよりとして気分が沈んでいる日なのだ。
 ロケーション撮影が行なわれた場所はイタリアのローマそしてナポリのイスキア島で、行ってみたいとも思う。「太陽がいっぱい」が世に出て60年になろうとしていて、いまもって色褪せることがない。不朽の名画名曲である。

◎プロフィール

帯広市出身。自営業。文筆家。趣味/映画・街歩き・旅・自然光景鑑賞。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。

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