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エッセイSP(スペシャル)

帳尻・・

たかやまじゅん

2020年3月16日

 暖かい日が続き、「雪が無くて助かる」と胸を撫で下ろす。しかし、心の隅で「帳尻は必ず合う筈だ」と思う。これは〝つじつまが合う〟の意味で、何れドカっと降ることを覚悟する。やがて1月後半から至る所に雪山が出来始め、札幌市のHPに載る翌朝の雪かき指数を、4段階で示すマスコット〝スコップ君〟と再会を果すことになった。
 雪と関わって10年余り、段々しんどくなってきたことは否めない。反面、積もるのならトコトンやってやるとの気持ちもある。床に就く前、窓のカーテンにはシンシンと降る雪の影、夜半に除雪車が通りキレイなったのが、皮肉にも朝方には確り積っていた。そして窓から見える轍に、喪失感と反骨心が交差する。
 朝7時、腰に使い捨てカイロ、耳当てと厚手の手袋。雪が舞った時の頬っ被り用タオルを揃え準備万端。外に出ると冷気に襲われ、時間により気温が変化するのを肌で感じ取る。スズメのさえずりを耳にすると雪は止み、陽射しが青空を連れてきた。
 1月はサラサラ雪だが、2月中頃には湿ったベタ雪に変わり、少ないと30分、多い日は2時間近く掛かり、うどん粉を捏ねたような重たさに、寄せる腕の力がこもる。その日その時で、雪の質と積もり方が違うが、やはり降る量はちゃんと合う。
 かつて、会社で経理部門の頃、伝票や帳簿は手書きで算盤を弾いていた。月末に帳簿が10円合わず残業、思わず10円玉ならあると呟いてしまう。それを耳にした上司から「千円だったらどうする!?」と問われた。このとき「帳尻を合わせるのでなく、合うまでやって原因を検証することが大切だ」と教えられ、私の中に帳尻(ちょうじり)の文字が焼き付いた。
 さて、例年は早々と排雪がされる雪の山が、暖気で融けて道路にはみ出してきた。小路の歩道は埋まり、一車線になった車道を人が歩く姿も珍しくない。家の前は登校する生徒が通る。狭くなった道で子供を視て速度を落とし、雪かきをする私に頭を下げ通り過ぎる車。クラクションを鳴らしすり抜ける車など、人間模様を垣間見る雪の朝・・。
 通勤の人や子どもたちと顔見知りになり、自然と「おはよう」の言葉を交わす。ある日、低学年らしい生徒から「頑張って下さい」と言われ、ありがとう‼と思わず片手を挙げるのだった。

◎プロフィール

〈このごろ〉家紋を調べることがあり、久々に江戸時代の系図集「寛政重修諸家譜」を開く。この中では、武士がいかに家を存続させたかが分かる。

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