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エッセイSP(スペシャル)

ちゃんと読んでください

冴木 あさみ

2021年6月 7日

 好きな人はいないだろう。胃カメラ検査。
 先日、二年ぶりとなる健康診断に行った。昨年はコロナが心配で一回パス。受診者が減っているせいかすぐさま予約が取れた。
 空腹の朝一番で受付を済ませ、書類が入ったクリアファイルを片手に病院内あちこちスリッパをぺたぺたさせて移動する。さあ、クライマックスは胃カメラ。内視鏡検査受付で、私は衝撃の一言を聞く。
「昨年から、鎮静剤は使用していません。喉の麻酔だけですからね」
 内視鏡の管が細いものに替わり、鎮静剤を使わないことで、健診後三十分安静にする時間が省略され、受診者はすぐに帰宅できるというのがメリット。病院側にとってはベッドを何台も用意する必要はないし、人手もかからない。でも時短は必ずしも改善とは言えないだろう。私が求める最優先課題は苦痛のない検診だ。
 不安で放心状態のまま検査室のベッドに座る。
「はい、息を大きく吸って。喉麻酔をシュッと入れますよ」
麻酔が喉に噴射された。瞬間「オエッ」
「我慢してね。もう一回」
「うっ、オッ、オエ~~」
「あ、飲み込まないで! 我慢、我慢」
 どうすれば我慢できるのか教えてほしい。
「じゃあ、横になって。これをくわえてね」
 マウスピースを口にぐいと押し込まれる。頭の後ろから固定バンドを回される、この状態。
「オエッ、オオオ、エッ。ウエッ・・・」
 嘔吐モードにスイッチが入った。看護師は困惑(したような気配)。
「まだ何もしてませんよ」
 じゅうぶんしてますよ。苦しい気もするが、胃の中は空っぽなので我慢するより自然に任せたほうがいくらか楽だ。それにしても...もう、ダメ。
 涙の向こうに技師と看護師が突っ立っている。器具を手に呆然と私を見下ろしている。もう無理。両手をクロスして中止を訴えた。
 事前書類には鎮静剤を使用するかどうか、それに伴う同意書契約書類があったとのこと。毎度のことだとよく読みもせずに鎮静剤不要の書類にサインしていたようだ。この重要な書類を見過ごすなんて、痛恨のミス。
 面倒だからもう帰ると言いかけたが、サインは後でということで、鎮静剤を腕に点滴して何とかカメラを通すことができた。朦朧とした状態でも小さく「オエッ」と繰り返していた。電子カルテにも「オエ、オエあり」と記載された。オエは医学用語ではあるまい。
「問題ないですね。でも少々胃が荒れてます。ストレスかな?」
 このストレスがそれです。
 乱視が進み文字の詰まった書類を丁寧に読めなくなってきた。特に夜はいけない。家に届く書類は職場に持っていき、デスクでしっかり読むことにしている。
 今月の教訓。面倒でも書類はちゃんと読まなければならない。

◎プロフィール

さえき あさみ
長引く緊急事態宣言。今はおいしくご飯が食べられるだけでありがたいと思っている。

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