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エッセイSP(スペシャル)

またね・・

たかやまじゅん

2021年7月19日

 子どもの頃、夏になると葉生姜がちゃぶ台を飾っていた。生味噌を付けてかじると、辛味も程よく風味があり、夏が来たと感じるのだった。東京の谷中で栽培され、江戸っ子に人気があったそうで、関東生れの私には谷中生姜の名で馴染み深い。
 数年前、札幌駅にあるデパートの野菜コーナーでこれを目に留めた。品定めをしていると「今朝入ったばかり」と店員の声がして、葉生姜の食べ方談義から顔見知りとなった。今では、他の店員でも時季が近づくと「もうすぐ並ぶ」と教えてくれる。静岡、千葉、茨城産でたいがい199円、二束買い〝またね〟とレジに向かう。たったこれだけの買い物だが、彼らと顔を合わせるのも愉しみのひとつなのだ。
 この野菜売場の近くに京漬物があり、千枚漬や酸茎(すぐき)について店員が説明をしてくれた。京野菜に詳しいので訊いてみると、京都まで研修に行き知識を得ているそうな。こうして通るたびに「壬生菜が入った」などと紹介するので買ってしまい、またねと言う。
 デパートの隣に建つ大型書店では、大半の店員と顔なじみであった。地下の遊歩道にある飲食店は、自粛による休業中のプレートが外れたのでコーヒータイムを摂る。テーブルに着くなり「暫くでした」と言われ、やはり顔を知っていると安心感が生れ、どこの店でも会計を済ませたら、またねと言葉を交している。
 年明け膝の痛みを感じ、近くの整形外科に通うようになった。この病院は、数年前に外出先で転び大ケガを負い診て貰っていたので、顔見知りのスタッフも少なくない。通院すると受付で検温するのだが、なぜか体温が低くいつも測り直す。暫く待ってから「体温どうかな」と声を掛け二言三言、帰りがけは無意識にまたねと言っている。この時、待合室にいる人たちは、怪訝そうな顔で私を見ているのだった。
 かつて人と接する仕事に携わっていた頃は、締め括りに「また会いましょう」の思いを込め「よろしく」とか「ではまた」などを使っていた。ここ1年半に亘り、人と逢うのを極力避けていたことから、メールやラインでのコミュニケーションに変わったが、やはりその最後には、〝ま・た・ね〟と三文字を打つ。
 国は違っても英語でSee You、中国語は再見だった。いまは、この短い言葉によって、お互いの繋がりが深まるのではないだろうか。

◎プロフィール

〈このごろ〉京都が舞台の文庫本。四季の街並みや食べ物、歴史と文化に神社仏閣、そして妖かしまで登場する物語にはワクワク感が止まらない。

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