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エッセイSP(スペシャル)

来し方・・

たかやまじゅん

2021年12月20日

 久々に東京の知人から、出張で来札するとの報せを受けた。その日は予定の時間より早めに出掛け、地下鉄すすきの駅から地上に出て、信号待ちの人込みから交差点角のビルにある行き付けの店に目を向けると、窓の灯りが見当たらず一抹の寂しさを覚える。
 風の冷たい街並を辿ると、歩道の花壇に腰掛けた若い二人が身を寄せ合っている。宴会なのか前方を往く同じ赤のコスチュームで身を包んだ数名の女性が、黄昏時のビルに吸い込まれて行った。
 夜の街には暫く来ていなかったので、周りのネオンに戸惑いつつ、店の名を確認しながら入り、席に案内されて暫くするともう一人駆け付け3人での再会となった。飲み物が運ばれ、いつもなら「カンパイ!」と声高らかにグラスを合わせるだが、控えめに口元へ運んだ。この瞬間、喉越しの爽快感は何ものにも代え難い。
 テーブルを囲むのは本の編集者、そしてイラストレーターとそれぞれ経歴や立場は違うが、読み物や絵画好きの私には嬉しい繋がりであった。こうした異業種の人との出逢いはリタイアしての賜物であり、お互いの来し方(こしかた、きしかた)が潤滑剤となりグラスを干すのも早く、旧交を温めたひとときを過ごす。
 こうした人の来し方を〝もみじ〟に例えた話を思い出す。それは春に芽吹き、初夏は青もみじとして映え、徐々に黄色や赤の彩りを醸し秋の陽で深紅に染まり、褐色から茶色の散りもみじを敷き詰めながら冬を迎え、翌年また再生する。この自然との移ろいを繰り返すことが世のすう勢だそうな。
 直近のニュースで、若い人の約6割が飲みにケーションは必要ないと言う。私たちが若い頃はこの付き合いも仕事の一環になっていた。昨年来、リモートや在宅での勤務になり致し方ないと思うのだが、昔のような大勢で時を費やすのと違い、今は気の置けない仲間と過ごすようになったのかも知れない。しかしこれで仕事が円滑に進み、人間関係を作れるのだろうか。
 これまで酔いに任せ足は次の店に向かっていた。だがこの日は、「またの機会に譲ろう」と約束して店を後にする。ところで前回の来札の際、馴染の店であれこれ来し方を語ろうとボトルをキープして置いたのだが、折からの状況下で店が閉じたのは、昨年末のことであった。

◎プロフィール

〈このごろ〉名刀を擬人化した「刀剣乱舞」、家紋の「家紋無双」、京都の街を守る「お通り男史」は、故事来歴を確り織り込んでありハマってしまう。

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