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エッセイSP(スペシャル)

話しかけた子供は

吉田 政勝

2022年3月28日

 写真を撮って文を書いている。フリーな契約で取材を始めて8年ほどになる。
 思い返すとコンサートや落語、イベントなど楽しい会場に足を運んだ。聴くだけなら楽しいが、私は内容を把握して写真を撮らなくてはならない。仕事なので心底からは楽しめない。右へ左へ舞台前へと位置を変えて撮った。
 6年前の12月25日に魚類学者でタレント活動をする「さかなクンの講演」が中央公民館で開かれた。親子連れなど540人が来場し、大ホールは満員だった。さすがに子どもたちの人気者だ、と思いながら講演が終わったので私は席から立ち上がった。子どもから感想を聞きたいと思い周りを見回した。
 取材の腕章を見せて、「講演の感想をききたいけれど、いいですか」と少年に声をかけた。
 小学3年生のS君だった。彼は鼻筋の通った二重の目が澄んだ少年で、彼の横に妹らしい子がいる。ふたりの側に母親が立っていた。
 その30代の若いお母さんが目を丸くして「わたしの父は吉田です。親戚に取材記者をしていて、本も書いた人がいると聞いておりますが、あなたですか?」と声をかけられた。
「えっ、まあ」と驚いて返事をし、「父とはMさんですよね」と私が確かめると彼女は「はい」と答えた。私は子どもにカメラを向けて撮ると「できたら送ります」と言った。数日後、写真を添えてMさんに手紙を送った。
 Mさんは私の父の嫡男(異母兄弟)だった。父は初婚で離婚している。私の母とは再婚だ。異母兄弟がいると、母に聞かされていた。叔父の一人が「Mさんがお前に『会いたい』と話している」と言われていた。とくに会うことを拒む理由もなかった。定年後に書いた本ができたので、それを謹呈する口実に訪問した。
 私の父はこの世にいないが、Mさんの顔を見ると、父の目と鼻筋が似ていた。つまり私の顔にも似ている。
 異母兄弟に会いたいが相手の気持ちを確かめる方法も考えつかない。しかし、気をつかう歳でもないと思った。お互いに苦労人であったかもしれないが恥じることはない人生。会えてよかった。

◎プロフィール

(よしだまさかつ)商業デザイン、コピーライター、派遣業務などを遍歴。趣味は読書と映画鑑賞。

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