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エッセイSP(スペシャル)

赤チン・・

たかやまじゅん

2022年6月20日

 その昔、男の子たちは路地裏や空き地に集まりメンコやビー玉、そしてチャンバラや西部劇の〝ごっこ〟遊びに興じていた。夏は半ズボンにランニングシャツ姿で、膝や腕のあちこちに生傷が絶えず、家に帰って水で洗うと母親が赤チンを塗ってくれた。これを仲間内でオレもオレもと赤い勲章⁉を自慢し合った。
 その頃の道路はジャリ道で、転んだらすり傷となってそこに土がめり込み、病院に行くと傷口を消毒され黄色いカーゼをあて、包帯でグルグル巻にされるとその白っぽさが妙に恥ずかしかった。数日後、病院で包帯を取るとガーゼが傷口に付いたままで、液体を湿らせながらピンセットで剥がす時の痛さは今でも覚えている。
 やがて傷口が盛り上がり始め、かさぶたが出来た。医者からは自然に取れるまで触ったらダメと言われるのだが、痒みでつい手を触れてしまう。そして何故か無性にこのかさぶたを剥がしたくなって、手足のそこかしこに傷痕が遺った。
 時は流れ、家庭用の消毒液や様々なサイズのキズバンやサポーターが普及した。赤チンは、暗赤褐色の赤いヨードチンキから通称赤チンと呼ばれ、最盛期には100社ほどが製造して薬屋で販売され、家庭や学校の医務室、会社の救急箱にも置かれ馴染深かった。だが水銀を使った製品製造規制により2020年に生産が終了し、赤チンもその役割を終える。
 数年前にステップを踏み外し、額や膝に傷を負っただけでなく親指も脱臼し、整形外科でマッサージ治療を受けた。そしてかさぶたの痕が目立たないように塗り薬を処方され、知らず知らずの内にかさぶたが取れた。今も洗面台に立つと、左の額に薄っすらとした傷痕が鏡の中に写った。
 外の傷は見えるが、心の痛みは見えない。ましてそこに薬を塗るわけにもいかず、その多くは人との繋がりや時間の経過と月日で回復し、それは〝日にち薬〟とか〝時薬(ときぐすり)〟と言われ、これこそが赤チンに変わって昔も、今も自然治癒を導いてくれる。

◎プロフィール

〈このごろ〉暫く音沙汰のない友人から電話があった。仕事が一区切りしたので連絡をくれたそうな。こうして再会し話に花が咲いた

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