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エッセイSP(スペシャル)

成果主義

吉田 政勝

2023年10月30日

 商業デザイナーとして私が独立したのが42歳(1992年)だった。その15年後に主な顧客を次々となくした。日本経済のバブル崩壊後、地方にデフレ経済の低迷がつづいていた。
 自営を畳んで派遣労働に就き、その半年後に私は運よくデザイン制作部のあるF社に転職できた。慣れない業務手順をメモしながら必死で覚えた。顧客の原案を7名の制作者はパソコンに向かいイラストアプリで図柄をトレスするとデータ化した。
 定年で退職となったが職場の仲間から花束とメッセージをもらい、うれしかった。秋には職場の「日ハム同好会」の4人で札幌ドーム観戦に行った。また、大樹の歴舟川支流へ、私より歳の若い係長を誘いヤマベ釣りにも行った。10年前なのに、「自然の中での渓流釣りは心洗われた思い」と係長はラインで伝えてきた。秋や春の職場の懇親会を楽しく思い出しながら、ふと思うことがある。
 制作部の繁忙期には全国の顧客からFAX原案が次々と届いた。それらが原稿箱に積まれた。私はキャリアを意識して、あえて手間のかかる仕事も手がけた。おのずと業務の数が少なくなる。上層部が「本数が少ない、 劣っている社員」と私の業務成果を見て評価されていたかもしれない。
 というのは当時の10年ほど前からアメリカの企業が急成長した「成果主義」にならい、日本の企業も年功序列を廃して成果主義を導入しだした。職員同士の競争意識を高め、若手社員の成長を期待した。
 だが、成果主義は失敗した。数字にあらわれないサービス業務をおろそかにする傾向が社内に浸透し、顧客が離れた。仕事の失敗がマイナス評価になるため、社員のチャレンジ精神が失われ、ヒット商品が生まれなくなった。ベテラン社員は自分の成果だけを追求し、若手社員の教育を放棄し、人材が育たなくなった。
 富士通、日本マクドナルド、資生堂、三井物産、小林製薬など名だたる大企業が10年の間に成果主義に見切りをつけ、従来の定年制を復活させた。
 (あの成果主義はどうなった?)と検索してみて、私が分かったことだった。

◎プロフィール

心況(よしだまさかつ)
本誌にエッセーを書いて27年を迎える。手直しのない原稿を心がけた。発表の場を与えられてひたすら感謝である。

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