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エッセイSP(スペシャル)

半年が過ぎて

吉田 政勝

2023年11月27日

 町民文芸誌の編集委員に委嘱されている私が、編集会議に出たのが11月中旬だった。会議が終わって、近くの図書館に寄った。
 新聞を読んでいると昼食の時間になり、玄関前のホールに移動し、カフェでランチを頼んだ。
 窓際の席で待っているとSさんが「チラン寿司セット」を運んできた。顔見知りだったので「未払いで食い逃げしたらどうなるの?」と私が冗談っぽく言ったら、「追いかけますよ!」と彼女は笑顔で応えた。苦笑しながら、私は箸を手にしてごはんを食べた。スープをすすり、ポテトサラダやゼリーもたいらげておいしかった。
 カフェは今年で10周年を迎えた。町民の女性サークルたちが運営していた。代表のKさんにランチを残さずに食べられるようになったら、ねぎらいの言葉をかけたいと思っていた。
 しかし、年始ごろから私は食欲不振で体重が減りつづけ、食事が十分にとれない事情があった。クリニックの検査をうけると「胃がんの疑いがある」と外科医に告げられた。さらに検査をすると「悪性リンパ腫」と判明した。ステージ4の血液がんである。
 十勝で血液内科の専門がK病院にあり、そこに入院したのが5月だった。病院食は消化のよい栄養を考えられた内容の調理だったが、3割程度しか食べられない。抗がん剤投与で副作用の味覚障害も出ているようで、食べ物の味がしない。おのずと体重は15キロも減っていた。1階のコンビニへ降りて、食欲をそそる商品を探すが食べたいものがない。プリンとバニラアイスを買った。   
 がん患者は食べられなくて痩せてくる、とよく聞く。本によると、がんが進行すると腫瘍や免疫細胞が出す物質「サイトカイン」が蛋白や脂肪を分解する作用で痩せる、と書いてあった。これを「悪液質」と呼び、いまだ完全な制御が難しいらしい。
 退院後も毎月抗がん剤投与を受けていたが、9月半ばで一区切りついた。10月になって徐々に食欲がわいてきた。外食も残さずにたいらげた。食べることは生きる力と意識できた。
 先日読んだ向田邦子のことばに共感した。「物がおいしい間は、死んじゃつまりませんよ」しかり!と私はうなずいた。

◎プロフィール

心況(よしだまさかつ)
気の置けない友や敬う先輩との食事と歓談が、至福の時間となお思う近況です。

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