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エッセイSP(スペシャル)

私になる時間

吉田 政勝

2024年6月24日

 テレビの画面にはキャバクラを経営するA子ママの顔が映っている。彼女の生き方や言葉に惹かれた。やはり言動には人物の知性が現われる。番組は「ザ・ノンフィクション」である。
 東京・府中にキャバクラを12年前に開店し今では7店舗を経営するA子ママ。業績好調のグループで働くスタッフは約百五十人。社員の幸せを考えての経営方針。店を行き来するママの愛車が自転車だ。まさにママチャリ。ペダルをこぐ、その背中に「ガンバレ、ママ!」と声をかけたくなる。
 そのA子ママの本棚が画面にアップされた。経営学やビジネス書、心理学や論語の本が並ぶ。スタッフやお客に慕われるA子ママの人望と経営才覚は本を読んで磨かれたと憶測できた。
 さて話は私だが、どうして今の私になったのだろう。こうして文をつむぐライターとして、イラストやデザイン制作をなりわいとしてきた。隅然の要素もあるが、日ごとの積み重ねが私の歩んだ人生となった。その岐路には恩人の導きや友人の力添えがあった。
 私の家は貧乏だった。ふつうの安全安心が定まった家に育たなかった。ゆえに親に依存できない自立の意識が早かった。働きながらの独学だった。転職もベースアップをと目論んだ。チャップリンは「私は金のためにこの世界に入った」と言い、フランスの作家カミュは「金ができるということは、時間ができるということだ」との名言をのこしている。
 時間で想起するのはエンデ(ドイツの作家)の「モモ」である。人々の安らかで実り多い生活をムダと断じて「時間泥棒」をして灰色の男たちは生きている。少女モモが男たちを追放する。合理と効率のシステムから解放されるという筋だった。作者エンデは人がファシズムに支配されたドイツの歴史を意識して書いたといわれる。
 映画を観て本を読む、音楽を聴く。余暇こそ人間らしく、目標とする人になるための自分磨きの仕込みの時間だと思う。いつの時代も労働は過酷で追われるが、余暇は労働の余った時間ではなく好きなものを追いかけて学ぶ時間。それは『生きる意味』を実感する豊かな時間になる。

◎プロフィール

〈心況〉過ぎた事をふいに思い出す。先生や友人の言葉。汽車通勤で急に目の前にきた女性?何を言いたかったのだろう…

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