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エッセイSP(スペシャル)

山で一人暮らす女

冴木 あさみ

2024年9月 2日

 しぶといウイルスとの共存をしつつ、ほぼ日常を取り戻した私達。だが自然災害を始め、世界情勢、物価上昇やオーバーツーリズムなど、これでもかと負の風が吹き荒れている。アフターコロナはたくさん旅をしようと息巻いていたが、私の気持ちはすっかり萎えている。特に猛暑の日本列島、少しマシな北海道にとどまるのが一番安全だ。シニアグラスを必要とする身になって、長い時間の読書が難しくなった。夜のくつろぎタイムはもっぱらテレビで配信動画を見て過ごす。
 最近はまっているのは、ウクライナ西部の山で、一人昔ながらの生活をしている女性の暮らしの動画だ。山間には川も流れ風光明媚でいい所と言いたいが、この国の一部は占領され今も必死の攻防を繰り広げているので気持ちは複雑だ。彼女の生活は決して楽なものではない。牛の乳を搾り、羊の毛を紡いで毛糸を作る。豚も鶏も彼女の生活のために飼われている。一角には野菜畑。季節の果実やキノコを採りに山に入る。
 見たところ四十代だろうか。山の生活を紹介する中で、中心となるのは彼女の作る田舎料理。掘っ立て小屋には暖を取りつつ調理のできる古いストーブがある。天板には大鍋が五~六個乗せられる。薪は大きな小屋に山積みに用意してある。一人暮らしのはずだが、毎回驚くほどの量を作るので、以前は大家族だったのかもしれない。大鍋の中で豪快にぐつぐつと音のする煮込みは実においしそうだ。
 美人だが勝気そうな顔つき。困った時は助けてくれる人がいるようだが、広い斜面の敷地を一人で賄っていくのは大変な労働量であり、また精神力も必要だ。掘っ立て小屋の他に、広すぎるほどの新しい母屋もあるから、ある程度裕福なのかもしれない。保存食もたっぷりある。
 彼女は何故ここで暮らしているのか。次第に彼女のこれまでの人生に興味が移っていく。一か月でも、いや一週間でも、仕事を手伝いながらここで暮らし、語り合ってみたい。しばしば彼女と一緒に働く自分の姿が画面に映って見える。楽しい妄想。。
 「ベッドと三食で毎日の労働を手伝います」
寝袋を背負って、彼女の目の前に立つ私。
 「まさか、言葉も通じない、まして六十歳を超えた日本女性などお断りよ」
何しろ気の強そうな目鼻立ちなのだから、私はひるむに違いない。
 「もうちょっと若かったらなあ」
こんな時、一瞬だけ老化をネガティブに感じてしまう。

◎プロフィール

<作者近況> さえき あさみ
そろそろ北海道も新米の季節。今ある米を消費しようと食欲の秋目前にちょっと食べすぎ。

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