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エッセイSP(スペシャル)

子をはぐくむ

吉田 政勝

2024年12月23日

 スマホの無料アプリでニュースを見ていた。目をとめたのが「飲食街の路地裏でゴミにまみれて生きる猫」の見出しだった。
 本文を読むと、その猫はやせ細り、鼻炎を患っていて、顔にはケンカによると思われる傷もあった。ときには猫は人になつき、すり寄っていった。猫に優しい人がいる一方で、猫嫌いの人には蹴られることもあった。客の食べ残した魚の皮や肉などをもらい3匹の子猫たちに食べ物を運んで、その母猫は必死に子猫たちを守りながら育てていたのだ。
 その短い文を読んで、私の胸に熱い思いがこみあげてきた。自分が幼いころの母親を思い出していた。兄と妹と私の3人を育てるのに母は必死に働いていた。父は工場で働き、冬になると山奥の飯場に泊りながらの伐採をしていた。父の日雇いの稼ぎだけでは家計が十分ではなく、母も農家の出面に行っていた。農家育ちの母は畑仕事は慣れたものだったが、収穫時期の忙しい秋は、暗くなるまで家に帰れない日があった。
 お腹を空かして私たちは母の帰りを家で待った。それでも待ちきれなくて妹と私は街灯の明るい通りに出て、母らしい人影を探した。母が近づいてくると、「すぐにご飯にしよう。コロッケ買ってきたから」と言った。
 母は農協のイモ選果場や豆選りの仕事もして、洗濯など忙しく家事をこなしていた。貧しい生活で年末と正月の豪華な料理とは無縁だったが、それでもフキの煮物やナマス、黒豆を煮てくれた。クリスマスに母は赤いブーツのお菓子の詰め合わせをくれたことがある。うれしかったのを今も忘れない。
 母は身を粉にして働いて子を育てた。母の苦労を思うと、いつまでも親に依存はできないと思い私は中卒で社会へ出て、働きながら学校へ通って、通信教育も受講した。自分を育もうとした。
 11月13日に亡くなった谷川俊太郎さんの詩(自分をはぐくむ)では、こう記されている。
「自分をはぐくむのは難しい
 自分を枯らすのは簡単だ
 あなたを導くのは
 ほかでもないあなた自身」
 この詩は私の胸にひびいた。

◎プロフィール

心況(よしだまさかつ)
月に1回(約28年)本誌にエッセーを載せていただいた。文を書くのは好きだが、何より「読者に意味ある内容」をと心がけて執筆してきた。

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