オリビア
2025年1月13日
仕事が始まると日常がすっかり戻った。ただ、神聖な気持ちで手を合わせた元日の抱負が、何だったか忘れる始末。なぜか毎年のこと。
新年に昨年の話はご法度だろうか。生きとし生けるもの、命尽きる時を避けるわけにはいかないが、年の瀬に飛び込んだオリビア・ハッセイ逝去の知らせが、まだ心の片隅でざわついている。
オリビア・ハッセイを初めて見たのは小学生の時。ピアノの先生の部屋に貼られた大きなポスターだった。ジュリエットの衣装の彼女は、大きな上目遣いの目が印象的で、子供心にその可憐な美しさに衝撃を受けた。映画『ロミオとジュリエット』を見たのはそれから何年も後のことだ。
高校生の時は、少ない小遣いで映画雑誌『スクリーン』を購入していた。映画ファン必見の雑誌だが、しっかり大人雑誌で、性描写の激しいページが挟まっている。両親に「青少年にふさわしくはない」と諫められながらも、いかがわしいページを破棄することで、購読を継続していた。今では懐かしい思い出だ。
デビュー作の大ヒットが、その後の役作りに困難を極めることは今も昔も変わらず。彼女もジュリエットの印象が強すぎるせいか、はたまた演技力に問題があるせいか、続く作品に名を残すのは難しかったようだ。でも多くのファンがいることで、私生活の写真はよく『スクリーン』に掲載された。インドでの撮影の合間の写真は今も脳裏に焼き付いている。長い髪をなびかせ、幼い息子を片手で腰のあたりに抱え、右手で扇子を扇ぎ、ほほ笑んだ彼女のえくぼがとても魅力的だった。
『ロミオとジュリエット』の撮影裏話として『スクリーン』の記事によると、監督はオリビアのブルネット(ダークブラウンの髪の色)が気に入らず虐めたとのこと。事実かどうか知らない。しかし、撮影から半世紀以上も経て、彼女がこの映画のヌードシーンに関して訴訟を起こした時、即座に昔の記事を思い出した。すでに亡くなっている監督や映画会社に対する不信感と嫌悪感、屈辱感といった様々な感情が、彼女を苛んでいるのかもしれないと。訴訟で名を売りたい忘れられた女優とか、お金のためとかいろいろ書かれた。性犯罪を決して許さない時代になり、とうとう訴えることができた。しかし、裁判で訴えは棄却されたという。
享年七十三歳。私と十も違わなかったことに今更驚いている。永遠のジュリエットは、実に薔薇より美しかった。
◎プロフィール
〈作者近況〉さえき あさみ
若いころは冬の早い夕暮れが悲しかったが、今は落ち着いたいい時間に思える。とらえ方次第で幸せの数がいくつも増える。