シューズスタジオ サカイ
2025年2月17日
靴の手入れをお願いしようと思い、帯広の鉄南地区グリーンベルトに面しているそこは、建物の間1.5m幅くらいのところを入ってゆく。昔ぼくが西新宿にいた頃の裏通りのような雰囲気がするところで、日活映画のロケ地風の1シーンにも見えるのだ。外観からしてどういうところなのかなという気がした。なんだか隠れ家風みたいな感じで、右側ドアのプレートには「シューズスタジオサカイ」とある。ドアブザーを押すと扉が開いた。メタルフレームの眼鏡にガッシリとした体型をしている彼は嬉しそうに微笑んでいる表情をして現れた。
靴というものは案外に自分で手入れをするといっても大変で、けっきよく靴屋へ持っていって頼むことにするけれど、2回3回と履いているうちに輝き具合がくすんでしまうのはしょうがない。
自分の仕事はスーツスタイルなので革靴は大切なものである。車に乗っている時は古い靴を履いて、お客様にお会いする時は新品靴に履き替えて降車する。履きつづけていれば腫が減ってゆくことは仕方がない。 何ミリかでも減っていくと、なんだか身体が傾いているようでどこか間が抜けているような感じがしてならない。何よりも汚れてしまうのは仕方がないけれど。そこでスタジオに踵の調整と靴磨きをお願いする。
後日仕上がって受け取り、履いてゆくと、その出来具合に、驚いて感嘆してしまった。履き終えると布で埃や汚れを取り除いてケアするわけだが、そのきれいさが保たれているではないか。そして何度か履いているのにそのクリーンな雰囲気や質の良さに納得するのだった。
いったいどういうことなのかとサカイ氏に尋ねてみた。
まず、汚れを「徹底的に落とすこと」から始まるのだという。 -
暫くしてから靴墨を塗って馴染ませる。
それから磨き上げる。
そうして日時を掛けて処理しているということだった。
ぼくは溜息をついてしまった。
仕上がった革靴には、ステージとしての存在感が感じられてならない。 これがぼくの靴なのかと透明な大き目のポリ袋に入れて抱えて抱きしめたい心地がする。靴墨のありよう。輝く存在感。買ってからまだ4回、 5回しか履いてないだろう。歩く場所や歩き方などに気を付けている方ではないか。新品とは言えないだろうがそういうことを踏まえて、左右の靴を親指と人差し指で摘まんで持ち上げてみる。メンテナンスを終えた靴には地と地表とのありようが漂っていた。靴は生きているのだ。サカイ氏はすごい仕事をしているのだった。
◎プロフィール
帯広市出身。自営業。文筆家。趣味/映画・街歩き・旅・自然光景鑑賞。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。