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エッセイSP(スペシャル)

それからの人生

冴木 あさみ

2025年3月 3日

 前回私はこれまで味わったことのない苦しみと、死と、黄泉がえり体験について書かせてもらった。総合病院で点滴の治療中、アレルギー反応を起こし、呼吸困難から心肺停止状態に陥った内容だった。病院内ということで即座に心臓マッサージが行われICUに移動。幸い医師もスタッフも勢ぞろいしたなかで蘇生に成功。ただし、急遽呼ばれた親族は医師から厳しい言葉を告げられた。
「かなりの時間脳に酸素が供給されていなかったので、会話も運動機能も回復不可能かもしれない」
「奇跡的に回復できた」と言われた私は、ICUでのてんやわんやも知らず呑気に死んでいた。二十時間ぐっすり眠って目を覚ます。数秒後、体のあちらこちらにカテーテルが挿入されていることに気づき、呆然と死ぬ前を思い出した。
 無事退院したのはいいけれど、その直後の検査で再入院することになった。今回の事件が引き金なのかどうか分からないが、心臓の機能が低下し厄介な病を抱えることに。
 心不全。
 寝耳に水、窓から槍だ。二十四時間で、体からなんと三リットルの水分が除去され、浮腫んでいた体がすっきりし、呼吸も楽になった。入院は三週間近く続き、何度も薬を変えては採血とレントゲン検査、心臓の検査が行われた。完治できない病。今後死ぬまで服薬と健康管理をしていかねばならない。「まさかの坂」が目の前に現る。
 ICUを出るとき看護師に言われた。
「これからは好き放題に人生を楽しんでくださいね」
 こんな体で思う存分人生を謳歌できるのだろうか?
 職場の人たちに言われた。
「必要な人なのよ。何かをしなければならない人かもよ。」
 制限のあるこの体で何をしろというの。だいたい「何か」という表現がくせものだ。まるで空っぽの箱のようで、凡人に中身は見えない。なにより自分で始めた小さな会社をほっぽり出して自由気ままは許されないことだろう。いや、あの時死んだと思ってもらえれば、いつでも脱出可能だろうか?
 今、相変わらずの生活を送っている。時々この世界が現実味のないものに感じる。二度目の人生と言われて、私に大それたことなどできない。これから先も安全運転で進めば多少の雨風におびえる必要はない。歴史に名を残せなくても、知る人もいないささやかな自分の物語が愛おしい。

◎プロフィール

●作者近況
さえき あさみ
【惜別のご挨拶】
三十数年間、私の拙文を辛抱強くこの頁に掲載し続けてくださった編集長には最大の感謝を申し上げます。編集部のご担当者様には、いつも校正作業等に寄り添っていただき、ありがとうございました。
プラスワンご購読の皆様も、この春新しい人生が始まるでしょう。どんな状況であっても、死ぬまで生ききることが人生です。
グッドラック!

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