七十四歳の新人
2022年7月 4日
「そんなに履歴書を汚すもんじゃない」 昭和の時代、年配の管理職の男性が中途退職する若い社員に話すのを耳にしたことがある。汚すとは、転職により履歴書の経歴欄に入社と退職の行数が増えることを意味していた。 最近の調査で、新卒で入社した会社を定
恩 師
2022年6月27日
一年ほど前に、レンタル店で偶然手にしたDVDの「私という人間を作った、すべての愛するものたちよ」のコピーが目をひいた。ノーベル文学賞のカミュの原作「最初の人間」という自伝映画だった。 カミュの父は戦死し、母は聴覚障害で読み書きができなかっ
赤チン・・
2022年6月20日
その昔、男の子たちは路地裏や空き地に集まりメンコやビー玉、そしてチャンバラや西部劇の〝ごっこ〟遊びに興じていた。夏は半ズボンにランニングシャツ姿で、膝や腕のあちこちに生傷が絶えず、家に帰って水で洗うと母親が赤チンを塗ってくれた。これを仲間
世界を歩いた男がぼくを見る
2022年6月13日
居酒屋などのテーブル席で人と向かい合って飲食をする。誰しもその光景は料理を食しながら飲み物を片手に楽しく語り合っているだろうし、あるいはそれぞれに何らかの事情だってあるかもしれない。 ところがジャーナリストである50代のS氏と飲んでいると
思い出、泣き笑い
2022年6月 6日
『ブレーメンの音楽隊』はドイツのグリム童話の中の一つだ。ロバの上に犬が乗って、その上に猫、その上に鶏が乗っている挿絵は、あまりにも有名だ。それを見るたびに、遠い思い出が蘇り私は涙目になる。 中学生のころ部活は英語クラブに入っていた。顧問の
仔犬がきた日
2022年5月30日
私は犬や猫が好きだ。テレビでその類いの番組があると、できるだけ観ている。また、散歩中に犬連れの人と会うと、つい視線が犬に向いてしまう。とくに柴犬の動作やその表情が好きだ。 子どもの頃に犬好きな子は、「犬を飼いたい」と親にせがむことがあった
ご縁・・
2022年5月23日
子どもの頃、家の周りは町工場が多く、そこかしこに折れた釘や鉄くずが落ちていて、紐で繋げた磁石を引きながらジャリ道を歩くと面白いほど集まってくる。これを廃品回収に持って行くとその日の小遣いくらいになった。 磁石はプラスとマイナスの二つの極が
客に応対するスタッフ
2022年5月16日
ぼくはそんな立派な人間ではないが、でも社会の一員には違いないと思うからちょっと気になることを話してみたい。ショッピングセンターやサービスショップなどへ行くと、応対振りがよくないスタッフがいたらガッカリしてしまう。本来、その関係構造は「お客
出会いのないロマンス
2022年5月 9日
「私結婚するんです」 爆弾宣言だった。彼女は齢五十歳。独身、結婚歴無し。これまで交際歴無し。恋愛には疎い人なのかと思っていた。 いきなりの告白で、反射的におめでとうの一言が出たものの、私の顔はきっと驚くというより引きつっていたかもしれない
失敗に学ぶ
2022年4月25日
「失敗しなくちゃ成功はしない」とココ・シャネルはいう。 私はシャネルのように大成功した人間ではないが、仕事の失敗は成長をうながすという言葉に同感だ。 札幌時代に、ポスターの描き文字が誤字で刷り直した。社長に呼びだされて叱責された。「校正は