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エッセイSP(スペシャル)

ダンディ氏のウォーキング

梅津 邦博

2012年9月10日

 視界の隅を横切ると、「あ、来たな」と思う。いつも朝七時頃、男が家の前を颯爽とウォーキングしてゆく。チノパンとスポーツシャツにスニーカーでネッカチーフなんか巻いていて、ダンディである。彼はとなりの町内会のO氏で、街中でメンズファッションの店を複数経営していらっしゃる。会うと微笑みながら挨拶を交わし、とにかく堂々と自信にでも満ちているようなのだ。
 たいした自信もなく、三百六十度見廻して幸福はどこにあるのかと探しているようなカボソイぼくにしてみれば、彼の存在は頼もしくかつ力強い男に見えてならない。
 ああやって歩いているということは、自分が、家庭が、それなりにちゃんとしているということではないか。デタラメだったり、何か悲しみや苦しみがあればなかなかそうはいかないものだろうな。
 ある朝、家の前に出るとO氏がやって来る。その表情は、太陽が、空が、街路樹が、住宅街が、なにもかもが清々しくてというふうに見えるのだ。やがてそばに来ると、挨拶がてらどういう道順なのかを聞いてみた。彼は、いくぶん顔を斜めにして両手を動かしながら、まるで詠うかのように説明してゆく。
 「…ずうっと行って西南大通を上がり、交差点から左折し…グリーンパークの正門を行き、高台の四阿から見える周りの雰囲気もいいんだな…さらに奥へ行って坂を下りるところなんかは、大きなカシワの樹などがあって枝振りがまたなんともいえない感じなんだなぁ…」と感に堪えないとでもいうふうにしてニコニコしながら、「では」と言って去ってゆく。なんか楽しそうではないか。
 それよりもなによりもその歩き方は、胸も肩ももちろんのこと足腰もしっかりとしていて、家族を会社を背負っている姿に見えてならない。そしてそれは、身体が向かってゆこうとしている空間を押し退けて行くかのようなどこか骨太的な堂々たる進み具合なのだ。昔観たことがある何かのハリウッドスペクタクル映画で、主人公が大地を歩いているワンシーンみたいだ。地上に人が誕生して以来、人は生きるためにそうやって大地を歩いていったのではないか。
 
 彼がだんだんと遠ざかる。なんだか大切なものを逃してしまうような気がして、落ち着かない。心細いな。いま走って行って彼についていくべきではないのか。そうするとぼくは安心感とともに何かが救われてゆくのではないかな、なんて思ってしまう。(あのね、人をアテにするなっちゅうの…)とどこからか声なき声が聞こえてくるようだ。
 誤解しないで下さい。ぼくはそんな妙な気なんかはありませんよ。だけど彼のありようには、ぼくという人間の至らなさや弱さなどを忘れさせてくれるような気がして魅かれてしまうのだ。
 明日もまた家の前に出れば会えるだろう。自分も希望に満ちた朝をめざして早朝ウォーキングをはじめようかな。

◎プロフィール

自営業。文筆家。
著書、銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。

 いつのまにか秋を迎えました。この夏ぼくはどこかへ行きたかったんですが、けっきょくどこへも出かけませんでした。わが街にて夏の情景に浸っていました。それでもいいんです。

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