文庫の中に・・
2012年10月15日
書店の棚に文庫オリジナルの捕り物・推理が並んでいる。剣に鋭く頭脳が冴える同心、将軍の落し種や大名の遺児が活躍する「若さま」もの、家来の「龍さん、虎さん」を従えた水戸黄門の曾孫、遠山の金さんが異母弟銀四郎と「金さん銀さん」としてコンビを組むなどユニークさに苦笑しつつ嵌った。
主人公を取り巻くキャラクターと江戸の風物詩を巧みに織り込み、歴史的背景も確り描かれ一緒に江戸の町を歩いているように感じてしまう。シリーズものは三か月のペースで続きが出て飽きさせない。こんなところに人気の秘密があるのかもしれない。
かつてお茶の間を賑わせたテレビ時代劇が「水戸黄門」を最後に消えた。中でも高貴な身分を隠し、市井に身を投じた貴種流離譚の「桃太郎侍」「長七郎天下御免」、殿様が城を抜け出て事件を解決する「暴れん坊将軍」など愉しみがあった。
醍醐味は立ち回りであり、主役の剣さばきもさることながら、絡みの上手さで決まることも少なくない。俗に云う切られ役のこと。刀を身体に当てたようで当ててない動きの速さ、切られたときの倒れ方の仕草が主人公を映えさせてくれた。
町人姿にやくざ者、はたまた浪人役など何度となく登場、クライマックスでは侍姿で主人公に切り掛かるのがお決まりとなっていた。
この中で俗に「五万回切られた男」と称される猛者がいた。映画の大部屋を皮切りに、いつしか「あの切られ役は誰・・?」と言わしめるほどの人気を博した。「ラストサムライ」で、影のようにトム・クルーズに付き従う寡黙な侍を演じ、その来歴はハリウッドに及んだ。
数多の時代劇の立ち回りで見分けが付くほどで、現代劇にも見掛けた。北海道でロケがあり、これから公開される「北のカナリアたち」では、生徒のお祖父さん役を演じている。七十歳に手が届くはずであるが、いぶし銀のような姿は、時代劇で培われたものかもしれない。しかし立ち回りが観れないのに一抹の寂しさがある。
本の中の主人公はあの俳優、悪家老がこの脇役、廻船問屋の○○屋にはあの人かなとかつて観た時代劇の顔?が重なってくる。チャンバラ場面になると、バラバラと出て来る浪人者にならず者たち・・流れるような殺陣に軽快なテーマ曲が文章の中から聴こえてくるようだった。
締め括りは葵の紋どころで一件落着。笑顔の若さまの向こうは日本晴れ。好きだった時代劇が書店の文庫棚に活きていた。
◎プロフィール
〈このごろ〉パソコン入れ替えた。ノート型からデスクトップ型になって画面も大きい。ソフトも最新版にしたので動きが速い。しかしキーボードを打つのは遅い。