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エッセイSP(スペシャル)

ひとりは自由

吉田 政勝

2012年10月22日

 20年前に町の人材育成事業でアメリカ研修に応募して選ばれたことがある。2週間の旅行になるので勤めていたならば長期の休暇申請は無理になる。有給休暇をめいっぱい使い釣りにゆく「釣りバカ日誌」の浜ちゃんは映画の中だけの話だ。
 私はその年の3月に会社を辞めて独立の準備をすすめていたので、社長に「1月のアメリカ研修旅行に行けることになりました」と相談すると「退職を早めて行ったらどうかな」と社長は提案してくれた。ありがたい言葉だった。
 30代で転職するときに韓国へ一人旅をして以来の海外旅行になる。韓国へはツアーに参加しながら、ツアーにない自分オプションも加えた。美術館へ行きたいのでハングル文字で行き先を書いて、一人でタクシーに乗った。私は集団行動しながらも、自分が行きたいところへは一人でも行くことにしている。
 アメリカ研修旅行で、7日目にカーメルの町に着いたときもそうだった。皆は海岸方面に出掛けたいというグループと宿泊先のホテルに残る人たちと意見が分かれた。私は海岸沿いに行きたいグループについて行ったが画廊めぐりがしたくなり途中で「ひとりで町並みを見て歩きたい」と団長に言って単独行動を開始した。知らない町で迷子になる不安もあったが、せっかくカーメルの町に来たのだから自分の目的を優先したかった。
 モントレー半島南側に位置するカーメルはアメリカ人のハネムーン先として、お金持ちのバカンスとして楽しむリゾート地として有名で、美しい街並みがつづく。家屋や店舗の南欧風の落ち着いた色調がおしゃれだった。色彩も都市規制があって派手な色は使えないようだ。歩道には花が咲き、街路樹の緑がなごませる。信号がなく、もちろん自動販売機など見当たらない。道路沿いには高級車が停車してある。ちなみに俳優のクリントイーストウッドが市長になったことでも話題になった街で、百年ほど前に作家や画家たちが住みついて築いてきた芸術の街である。そのせいか通りのあちこちに画廊があった。カメラで街並みを写しながら、とある画廊に入るとピーターマックスの作品が展示されていた。(ピース&ラブ文化を象徴する70年代の世界的に有名な版画家)オーナーはその作品を「買わないか」とすすめるが「ジャスト・ルッキング!」と言い断わった。
 その夜、アメリカは新大統領のクリントン氏の就任式だった。ホテルに戻ると多くのチャンネルがその就任式の模様を放送していた。髭の男が「新大統領に期待する」とコメントしていた。なんと画廊で作品を観たピーターマックスその人だった。何か不思議な心地がした。
 人は組織や集団に属するときは群れの習わしに従う生き物だ。群れから離れると孤独だが、一人の自由な時間は自分を豊かに満たす場合も多い。
 

◎プロフィール

やや秋めいてきました。いやしを求めて富良野の「アンパンマン美術館」を観てきました。よかった。

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