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エッセイSP(スペシャル)

さよならチビ

吉田 政勝

2013年1月28日

 妻の声が、向かいの家の前を見て、と叫んでいた。いぶかしげにブラインドの間を押し広げて見ると、某動物霊園の名前の車が停まっていた。チビが死んだ、と直感した。
 防寒コートをあわてて着ると、私は外に飛び出した。妻も後ろからやってきた。向かいの家の玄関からご主人と動物霊園の男性らしき人が現れた。不安な面もちで立ち尽くす私たちに「いや〜チビが昨日死んだんです」と主人が言った。
 車庫のシャッターを開けると毛布にくるまれたチビがいた。「寒い日が続いているので外で飼われている大型犬が最近つぎつぎと亡くなっています」と動物霊園の男性が言った。たしかに今年の1月はマイナス二十度前後の寒い日々が続いていた。2日ほど前に、チビがしきりに哭いていた。キャーン、キャーンと繰り返していたので、私は妻に「チビは近いうちに死ぬかもしれない」と言った。その予感が的中したのだ。
 薄茶色のラブラドール・レトリーバー犬のチビが向かいの家にやって来たのは十二年前だった。無邪気ではしゃぎまわる幼い犬だった。家族の人たちが散歩に連れ出すと小さなチビはリードがからまるほど飛び付き走りまわった。飼主以外の私たちにもなついて尻尾をちぎれんばかりに振ってきた。
 チビという名前にふさわしいのは、ほんの数年で、体はすぐに大型犬として成長していった。やがて左脚にピンポン球のような腫瘍ができた。それがみるみる体の成長とともに大きくなっていった。散歩するチビを見るたび腫瘍も大きくなってゆくのがわかった。数年前、その腫瘍の固まりを動物病院に見せると、取り去る手術はできないということだった。血管が流れていて体の一部と化していたのだった。腫瘍は大きくなり最近はサッカーボールほどになり散歩のときは雪の路面に血が点々と付着していた。足かせをひきずりながらも散歩好きなチビだった。もともとチビは脚に障害をもって産まれた犬だったという。
 車庫に横たわる動かないチビの体をなでながら妻が泣いた。妻はチビの稀な病気に自身の長年にわたる病気を重ねていた。横たわるチビを見つめながら「その姿でチビはよく生きた。楽になれたねチビ」声をかけ私も泣いた。
 出棺の時だ。チビの亡骸をつつんだ毛布の四隅を四人で持ち上げると霊柩車の後部席に乗せた。私たちは合掌し、霊柩車が角を曲がるまで見送った。
 視線を遠景の日高の山並みに向け、あおぎ見ると真冬の青空が鮮やかだった。いつまでも私は空を見ていた。

◎プロフィール

 本好きなせいか作家に出会う機会も多かった。佐々木譲、小檜山博、草森紳一、ラッセルバンクス、村山由佳。語り食事をした光景がよみがえる。 

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