ごほうび
2013年2月25日
深夜勤務は、23時に売り上げの精算をしてから、後片付けである。何かのアクシデントがあると5分10分が、たちまち過ぎてしまう。24時の退社まで時計を見ながらの冷や汗の綱渡りである。
業務が終わると、お疲れさま、と同僚にねぎらいの声をかけて、エレベーターで出口へと向かう。薄暗い通路を歩いて、職員用通用扉を開き、出てから鍵をかける。業務が終了したという解放感に安堵すると同時に急に外気の寒さを肌で感じる。今年の1月は数十年ぶりの記録的な寒い日がつづいた。仕事場では暖房がきいていて、むしろ暖かすぎるくらいだが、外に出ると寒さ厳しい真冬なのだ。コートのボタンをかけ身をすくめる。
運転席に座って、カバンの中の携帯メールをおもむろに見る。着信文を読むが、返信は出せない。多くの人は眠っている時間なのだ。発進しても車内の暖房はまだ弱く、寒さを覚える。
前方に、コンビニの灯りが見える。今日の仕事もつらかった、と自らをなぐさめながら、がんばった自分へのごほうびと考えてコンビニの前に車を停める。
レジ横のおでんの四角い鍋の前に歩み寄る。何が残っているかと見つめながら「フキにガンモにダイコン」と注文する。店員は汁をすくいながら、カラシか味噌だれつけますか?とたずねてくるが、「いえ、そのままの汁でいいです」と返事する。深夜食だから薄味でいいと思う。小銭入れから銀色と銅色のコインを数枚とり出してレジのデスクに置く。
車に戻ると、運転席に座り、おでんの器をかかえながら食べる。フキの束を箸で解いてつまむ。私にとってフキこそ春夏秋冬おいしい山菜の主役だ。汁を吸い込んだガンモと煮込んで黄金色になったダイコンもやわらかくておいしい。
食べるという人の営みは、ただ好きなものを優先するだけでは偏るだけで、食の哲学に反する。二宮尊徳の「報徳訓」では、身体の根元は父母の生育にあり、とある。かみ砕いていうと、家庭での食育の積善が健康な体をつくると説いている。
逆にいえば暴飲暴食、好物優先の食こそ健康をそこね、病気になるともいえる。そこで、私なりに夜食を考えた場合、過剰なカロリーは避け、消化の悪いものは食べない、という考えになった。寒い深夜帰宅の途中にコンビニに立ち寄り、暖かい「おでん」を食べるのが、この冬の定番になっていた。
仕事モードの頭のスイッチを切り替えて帰路に向かうとき、それなりの至福を感じる。好きなCDの音楽を聴きながら、ハンドルを握っていると、やがて自宅に着いている。少しの空腹が満たされ、労働の疲れのせいか、布団にはいるとすぐに眠りに落ちているのだった。
◎プロフィール
この1年で8キロ減り、二十歳のころの体重になった。食べ物の順番を考え野菜中心の小食を心掛けた成果か?。