光かがやく「十四代」
2014年1月20日
昨年暮れまで北海道新聞にまさきとしか氏のコラムが連載されている。
独善と哀しさとカヨワサとオサケの香りもする自由奔放な書きぶりは、楽しくて面白く、かつ肩を抱いて一緒に泣いてあげたほうがいいのかなという気もする。いや、ぼくはストーカーではないので、ねんのため。
自由に散文を書くといっても、とくにオモシロオカシブンなどは難しいのではないか。ランボウブンやミズアメブンなど読んでいると気分がどんよりしてくる。いや、自分のことを言っているのだよ。
いくら小説を書いても、本当のエッセイは超難しいと言われている。そして、
「雑文とは、本物の作家でなきゃ書けないもの」
とある巨匠が言っていた。
まさき女史の作品は、知性と品格の匂いがある。だからぼくは魔が差したのか嵌められたのか、ともかくふぁんになってしまった。それで差し出がましくもハガキを出させていただいた。投函したあとで、自分のミジュクサやアサハカサが丸出しだなと思ったが、時すでに遅し。
それは雨がシトシトと降っている日で、ザ・タイガース「モナリザの微笑」の歌のような気分の淋しい午後だった。出先から戻り、ポストを開けたら見覚えのある字に女流詩人からだと手にしたが、違った。思いがけないことにまさき女史からである。
ぼくは女史に、いつも連載を楽しみにしています。デスクとはケンカなどしないで、時に酒を飲みながらカタヲダイテでも仲良くやって、十年くらいは書いて楽しませて下さい。今度本が出たら真っ先に買い、行きつけの酒場で「国稀」を飲みながら読みたい──と記したのだ。
そしたら女史からのハガキの最後には、
─私は日本酒なら「十四代」が好きです。
とあった。
そっかそっか、十四代か。…え…もしかしてアレかな、一本買って送ったらいいということなのかな…。
ぼくは北海道では国稀が好きだし、あと、山形の酒なら眼を閉じてどれを選んでもだいたい当たり外れがないくらいに旨いと思っている。でも十四代とはどこのどんな酒なのか飲んだこともないので知らない。
コピー用紙を買いにホームセンターへ行った。混雑している店内をあれこれ見て廻ると、大型冷蔵ガラスケースがあり、日本酒がたくさん入っているではないか。よく見ると「十四代」の一升瓶があった。送料などはいくらすんのかなと思いながらも近寄ってみると、生酒と記してあり、
(えっ? い、いちまんななせん!…スゲェー)
眼が大きく見開いてしまった。
(こんなの飲んでんだべか。だからあんなふうに自由奔放に書けるんだな)
あ、そうだ、用事を忘れてた。コピー用紙を抱えながらソソクサと店を出た。
◎プロフィール
帯広在住。自営業。文筆家。
著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。