軽食喫茶で
2014年4月28日
春めいてきて車で出かけるのも気分がよい。食事をかねながら軽食喫茶Kに親しい三人の男が集い、打ち合わせをしていた。
私はカウンター席に座った。目の前でコーヒーをいれたり、会計をするSさんはパソコン教室で学んだ同士だ。彼女に話しかけたかったが、ただ会釈をするだけだった。
スパゲティーを作って運んできたママにも「ママの愛情こもっているから、おいしいよね~」とありふれた冗談を言う程度だった。ぼんやりした私でもランチ時間で忙しい店の空気はよまなければならない。
右側に会計のために一人の客がきた。ふと見ると白髪の年配男。彼が私に視線を向け「あれっ」と言う。どうやら彼は私の名を失念したらしい。だが、私は「ああ~Xさん」とすぐに反応した。すると彼はタメ口で「今、何やってるの?」とたずねてきた。お元気でしたか、と言う前に、また興味はそこなのと思った。 「この間まで事務の仕事をしていましたが、今度は新聞の地域通信員をやることになりました」と答えた。すると彼は「すごい~」と反応した。私は「たいしたことじゃないよ」と謙遜した。
実際に、私はへりくだったわけではなく、職を上下にことさら意識しない癖がある。そもそも、私は彼に対して好印象をもっていない。
X氏とは、4年前に同じ職場で仕事をする機会があった。私は制作部にいたが、繁忙期が過ぎた秋から画像スキャンの業務に配属された。彼は1ケ月後に私と同じ部門に加わった。場数をふんだ私は画像スキャン業務において彼よりできると自負があった。私は彼に教える立場だと責任感をもった。
パソコン操作は無理としても、大きな図面の分割方法はおぼえてほしいと思った。彼に説明するが「なるほど」と連発するわりには把握していない。親切に何度も要領を伝える私に「子どもじゃないんだ、何度も言うな」と耳打ちしてきた。あきれて私は教えるのをやめた。すると、彼は作業を取り仕切るようになった。だが、彼は処理済みの画像をチェックしていなかったので混乱した。
さらにX氏は休憩時間に、私の履歴を聞いてきた。どうでもいいじゃないか、と思いながら答えた。仕事中でもX氏は、職員の某女はバツイチで子連れだ、とプライベートなことを周りに聞こえるように話した。野卑で不快だった。
そんな彼に職場で苦手オーラを私は出していたはずなのに、4年ぶりに偶然会っても、さも親しげに口をきいてきたから腑に落ちなかった。やはり彼は空気がよめてないと思った。
◎プロフィール
北海道新聞「朝の食卓」元執筆者。十勝毎日新聞「ポロシリ」前執筆者。エッセイ集「モモの贈りもの」発行。晩成社の研究家。