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エッセイSP(スペシャル)

必要な物は

冴木 あさみ

2014年8月 4日

 昨年地下鉄駅に近いマンションに移った時、車を処分した。引っ越しする前は交通の便の悪い場所に住んでいたので車は必需品。どこへ行くにも何をするにも車が無ければ生活できなかった。毎日私の生活を助けてくれるパートナーだった愛車を手放すのは悲しかったが、十年を過ぎていたということで心に踏ん切りをつけることができた。マンションの駐車場はただではないし、立地がいいせいか駐車料金も高め。仕事がマイカー通勤不可なので平日運転する時間もない。ただ置いておくだけで料金を支払うのももったいない話だ。車を所有するプラス面、マイナス面を計算すると結論は明白だった。
 最初は歩いて移動すること自体心細い感じがした。買い物は全て自分の両手で運ばなければならない。心配なので引っ越して直ぐ近所の店のネット宅配サービスに登録した。でもこれまで一度も使ったことはない。子供も独立し家を出たので買い物の量も減った。考えてみれば両手に買い物袋をたくさん提げて帰宅することはほとんどない。徒歩5分圏内に生活必需品を調達できる店が揃っているので、必要な時必要な分だけ「ちょこっと買い」できる。戸建に住んでいた頃の物にあふれた納戸はなんだったのか、必要以上の物を抱えて生活していたのだと今更感じている。
 車を捨てた生活で意外にも大きく変わった事がある。それは服装。運転する時は動きやすくしわにならないようにと丈の短いジャケットを好んで着ていた。今は流行に関係なく腰回りを隠す長めのコートが何かと便利でクローゼットに加わった。玄関にはかかとペタンコの靴が並びヒールの高いパンプスは箱に入ったまま出番がない。歩く距離が長いので当然の結果だろう。足首がきれいに見える高さが何センチかなんて、靴ズレや豆が潰れる苦痛を考えるとどうでもよくなってしまう。そして傘。ドアtoドアの車生活で傘などほとんど使ったことがなかったが、朝の天気予報次第で傘を持つ。侘しいのは未だに十年以上前の色あせた傘を使用していること。早くお気に入りの新品を買おうと思いつつ、晴れると傘の事などすっかり忘れ、雨の日は濡れた傘を手に買い物をしたくないものだから買い替えがいつになるのかわからない。
 都会暮らしは便利で目の前に何でもある。綺麗なもの珍しいもの高価なもの。でも自分の生活に必要な物はそれほど多くはない。引っ越しを機に究極の断捨離をして物欲がほとんど無くなった。代表格が車だった。それでは何が必要でかつ欲しいものなのか、それはまだ見つかっていないような気がする。

◎プロフィール

さえき あさみ
札幌市在住。福祉施設勤務。
写経・手話の勉強・南の島への旅行が今年一年の計。

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