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エッセイSP(スペシャル)

命がけの朝食

冴木 あさみ

2014年10月 6日

 法事で小樽に行った。市内のホテルに親族が集まって一泊した。夜はホテル内のレストランの個室で和洋の創作料理を堪能。久しぶりに揃った親族は話が尽きることなく、ディナーの後も場を移して遅くまで酒を酌み交わしていた。
 翌朝食欲などあろうはずもないが皆と一緒に朝食の席に着いた。幸い豊富で新鮮な珍しい種類のサラダバーのお蔭で胃が少し復活し、色艶よく煮込まれたスペアリブの塊を二つも取る元気も出てきた。香草サラダを口にしてさっぱりさせたところで、さて、スペアリブを箸でつまんだ。ナイフとフォークが用意されていたが、舌の上でとろけた昨夜の豚の角煮の記憶が仇となった。前歯で噛み切れるイメージだったが噛み切れない。一度口に入れたものを出すのは行儀が悪いし、困った末に全部口の中に押し込んだ。しかしこの肉は想像以上に手強く奥歯でも分断できない。大きな塊のまま右の頬に移動し左の頬に移動し、憎らしいことに噛めば噛むほど大きくなっていく。ええい、このまま飲みこんでしまえ!
 …飲みこめない。喉の入り口に引っかかり奥に進まない。「うぐっ、うぐっ」口をおさえ呻き声を上げる私の異変を察知した妹と姪が「大丈夫?どうしたの?」と問いかけている。やばい、息が出来ず目の前がかすんできた。こんなものを口から出すなんて、そんなこと。でも死ぬよりましか?羞恥心よりも生きることを選択し、意を決して膝の上のナプキンを取り上げ口を覆った。やっとの思いでその中におぞましい肉を吐き出すことに成功したのだった。
 幼児や老人が喉に詰まらせて亡くなる事故がしばしばある。こういうことなのか。残念ながらお洒落なレストランの爽やかな朝食の席で体験するとは。実はここ数年蕎麦をズズズッと吸って食べることが出来なくなった。ラーメンも然り。むせて咳き込んでしまうからだ。すすらずに食べる蕎麦の味気無さと言ったら。蕎麦を食べる機会がめっきり減った。
 マナーの悪さを詫びながら「今死ぬとこだった」と説明したら、気配りのできる妹が「びっくりした。でも解る。私も自分の唾で咳き込むことがあるんだから!」と言ってくれた。まだまだ五十代と踏ん張っているが、身体は確実に老化しているのだ。ついでに分かったことがある。喉詰まりは次第に意識が薄れていく印象が大きく、水中でもがくほどの苦しみは感じなかった。何はともあれ上品な婆さんになるためにも、小さく切り分けてゆっくり食べる習慣を身に着けたほうがいいようだ。くわばらくわばら。

◎プロフィール

さえき あさみ
札幌市在住。福祉施設勤務。
写経・手話の勉強・南の島への旅行が今年一年の計。

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