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エッセイSP(スペシャル)

グレーゾーン?

梅津 邦博

2014年10月14日

 車の計器類警告ランプの点灯について診てもらうべく「マツダオートザム宮本帯広」に寄った。久しぶりに取締役部長の松山氏に会い、診てもらっているあいだテーブル席でいろんな話をした。
 母親の車も何度目かの車検時期が近くなってきており、だいぶ劣化してあちこち錆やキズもある。でも走行距離からするとまだ10万キロは走れる感があるのだが。そして母はずうっとマニュアル車を運転してきているが、今度乗り換える時はオートマにさせようと考えている。
 そんな話を彼にすると、
 「おいくつなんですか?」
 「80代だよ」
 彼は一瞬考えるような表情をした。
 オフクロは世間の高齢者とちがって若さがある。
 炎天下でも畑へ行っては草取りに精を出し、何かのレポートを書く時は夜中でもB4チラシの裏に2、3枚はびっしりと書き、また何百人の前でもスピーチは堂々とする。高齢者運転講習会など毎回受けているのだが、そのたびに結果は60代とか診断されている。およそふつうではないのだ。
 「部長ね、ひょっとしてあなたより元気かもわからんよ…」
 お互い破顔した。

 50代の松山氏は、店のトップとして多くのスタッフをまとめ、なおかつ経営上において常に数字上の管理をしつつ実績を上げなければならない責任がある。そうして外に向けてさまざまな客に対応してゆく。
 松山氏いわく、店に高齢者の方がときおり見えられて「車を買いたい」と仰るのだそうだ。
 「お元気そうでいろんな話を伺って販売させていただくわけですが、後日、息子さんら家族の方が来られて『なんで高齢者に車を売るのだ』といわれ、キャンセルになることがあるんです」
 以来、それからはそういうお客様が来られた場合は、「息子さんでもお連れしていただきたい」と申し上げているというのだ。
 彼が自分の立場以上に相手の話を伺い、客とその家族とのそれぞれの思惑に距離を保って考えているような情景が見える。接客における人間性が感じられ、それは凛としたものがあって柔らかさと爽やかな好感が伝わってくるのだ。
 それにしても悩ましい話だ。しかし、と言いたい。高齢者といえどもそれなりにふつうに元気で暮らしているのなら、無理に運転をやめさせないほうがいいとも思う。本人自ら考えて免許を返納されるという方もいるが、それで辞めたとたんに衰えていく人も多いのではないか。車の運転はそれだけ気を遣う訳だし、頭を活性化させているということでもあるのだ。
 どうしたらいいのか、グレーゾーンでもあるな。けっきょく本人の認識であり、責任でもあるということにもなる、という言い方は反って無責任ともいえるかも知れないけど。ま、本人が確りしているかどうかでもあるだろう。どっちにせよあのオフクロが、運転をやめるわけがないのだ。

◎プロフィール

帯広在住。自営業。文筆家。
著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)
銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)
喜久屋書店/ザ・本屋さんにて発売中です。

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