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エッセイSP(スペシャル)

それ、 十勝の豚丼なの?

梅津 邦博

2014年11月10日

 いつ頃からそうなってきたのか、近年、帯広・十勝のご当地名物「豚丼」は、観光シーズンともなると市内の各豚丼専門店前には行列が出来るようになってきた。店としては書き入れ時ゆえに汗だくになりながらして作りつづけてゆくのだ。
 帯広において7、8月にかけて大勢の観光客が訪れるようになり、ピーク時期には10万人、15万人、20万人というかつての状況では考えられないような数になってきている。
 それには新聞社主催による盛大な花火大会が二つ。平原祭りにおける各種催事、大道芸フェスティバルなど。さらに各種全国規模のスポーツ大会や産業団体などの大会と目白押しである。そうなるには帯広・十勝の関係機関の並々ならぬ活動があっただろう。
 多くの方々が集い、そして旨い豚丼を食し、清潔感のある街並みを散策でもしながら美菓を買い求め、郊外の美しい十勝ロケーションを観てくれることがいちばんでないかとも思う。
 観光の目玉とは、「食」「自然」「文化」などだろう。 食においてのいわゆる「豚丼」だが、それはメディアなど通じて全国的に有名になってブームとでもいえるような感になっている。それによって帯広市内ではさらに豚丼専門店が増え、地元十勝人のあいだでもなお一層のこと食する人たちが多くなってきたにちがいない。
 ところがその豚丼だが、近頃違和感をおぼえてならないのだ。本来の昔からある豚丼とはかなりちがった代物ではないのか?

 夏祭りのある日の昼、中心街にある料理店で注文して食べた。おいしかったが、しかし物足りなかったのだ。
 いうなれば、力強さとか生命力やエネルギー感などが弱いのである。肉が薄くてしかも小さかったのだ。他の店によってはさらに薄いバラ肉でタレも味以上に見た目に薄い色合いになっているのもあっていただけない。
 着物姿の会計係りに訊いてみたら、
 「みなさん食べやすくていいと好評のようですよ」
 と、なんだか上品な言い方をする。
 そうなのかなぁと思う。いつのまにか都会的な感じに成り下がってきているのか。つまりは地域的特性ともいう食文化を変質させていることになるのではないか。
 いったい帯広はどういう風土と歴史のあるところなのだろうか。ここは本州とはちがって極寒の地なのだ。零下10、20度以下の世界で開拓性を持って生きてゆくということは、食も淡泊的では通用しない。濃い目の味に力強さのあるものでないと寒冷地の身体としては納得しないのではないか。
 したがって、正しい豚丼とは「肉厚でタレは濃い目の味と色合いでなきゃならない」、とぼくは思っているのだ。

◎プロフィール

帯広在住。自営業。文筆家。
著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)
銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)
喜久屋書店/ザ・本屋さんにて発売中です。

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