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エッセイSP(スペシャル)

高倉健さん逝

吉田 政勝

2014年11月25日

 11月18日の昼すぎに驚くニュースが飛び込んできた。俳優の高倉健さんが10日に亡くなった。
 それからテレビに釘づけになった。健さんの出演映画を私は多く観てきた。その人柄も理解してきたつもりだったが、報道に接してあらためて健さんの人間性に心酔した。
 その日の夕方「十勝毎日新聞」が届いた。1面に「高倉健さん死去」と報じていた。翌朝の「北海道新聞」の1面の衆院解散の記事は目もくれず、「名優健さん悼む声」という左側の記事を読み、第1、第2社会面へと文字を追った。
 道内の新聞が健さんの訃報を大きく報じるのは当然だ。健さんの映画は北海道ロケが多かった。
 「幸福の黄色いハンカチ」は十勝や夕張がロケ地だった。山田洋次監督の作で、健さんは第1回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受けた。
 東映時代からの盟友、降旗康男監督と健さんのコンビで「居酒屋兆治」「冬の華」「駅」「鉄道員」などの名作が出来た。
 私にとって「鉄道員(ぽっぽや)」は印象深い映画だ。ロケ地の南富良野の幾寅駅へ何度か訪問した。撮影で使った幌舞駅の看板のままで、待合室は資料館になっていた。数年前、私は慣れない仕事に心身ともに疲れていた。健さんの駅長のストイックな役柄に力をもらって仕事に戻った。
 健さんと接した人や共演した俳優たちの悼む声がテレビで次々と流れた。その多くの悔やむことばの中で、武田鉄矢さんの思い出は、私の胸に特にひびいた。
 「幸福の黄色いハンカチ」のラストで泣くシーンなのに鉄矢さんは、涙が出ないから困った、という。すると、健さんが鉄矢さんに「お疲れさん。ロケつらかったか。東京に帰っても元気に暮らすんだぞ」といった。大好きなこの人と別れるのか、と思うと鉄矢さんは自然に涙が出てきた。それは健さん流のサポートなのか……。
 今、モラルの欠けた政治家やブラック企業に眉をひそめるご時世に、健さんの誠実で裏表のない存在は、人の憧れと重なり一種の浄化剤に思えてきた。
 「単騎、千里を走る」は健さん主演で、中国のチャン・イーモウ監督がメガホンをとった。「高倉さんは若いころからの憧れの人。だから悲しい」と世界の巨匠はいう。
 中国外務省が「高倉健先生は日中文化交流に貢献」と哀悼の意を表わした。やはり、健さんは世界に誇れる名優であり、日本人であると思った。

◎プロフィール

(よしだまさかつ)
北海道新聞「朝の食卓」元執筆者。十勝毎日新聞「ポロシリ」前執筆者。晩成社の研究家。

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