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エッセイSP(スペシャル)

新たなる挑戦

梅津 邦博

2014年12月 8日

 生業は紳士服の受注仕立て販売業である。それが低迷している。紳士服というもの自体はなくなるわけではなく、需要はこれからもつづいてゆく。理由はどうあれ、結論からすれば自らの努力が足りないということになってしまう。
 受注し、工場で仕立て、そして納品する。そうして次の仕事はどこから入るのか、営業してみないと判らないのだ。したがって力不足だと辛辣な憂き目を見ることになる。もちろんそうならないように予約などを少しでも多く取ってゆかなくてはならない。
 落ち込んでもいた。聴力が弱く人との会話も下手ではある。かつては公共団体など出入りしていてそれなりの実績もあった。だが精神的弱さからか多くの職員の眼もあるからなのか、セールスしづらくなっていつしか行けなくなり、個人的対象の方が主になってきた。そうして総体的に力は衰えていった。
 立ち位置の脆弱さに自分を責めていた。出来ないなら辞めてしまえ、という声が聞こえてきそうだ。腹立たしく情けなかった。悶々として夜になると酒浸りになり、つらい葛藤の日々を送っていた。
 いわゆる「注文洋服」は、仕立職人たちが高齢化して辞めていったり、業界として後継職人を育てるところまで行かなかっただろう。そんななかでうちは早くから「ニューオーダー(イージー)」に切り替えていった。

 何とかしなくてはと思いつつ、踏み出す切っ掛けがなかなかつくれないでいた。いつしか屹立してゆかなくてはならないのだとその思いに突き動かされるようにして、ぼくの何かがわさわさと煽られてゆく日々がはじまった。もう後がない、なんとかしないと、と遂に俄然とした思いが湧き上がってきた。
 ─何をしているのだ、立ち上がれ!
 そうして徐々に動き出していった。無鉄砲な行き当たりばったりではない。顧客を廻りつつ、ゆるりとそれなりのところを営業しながら、どんな業種や組織をそしてどういう立場の方々を対象とするのかなどを見直してゆく。

 本格的なスタートを開始した。新規開拓といういわゆる初めてのところへ飛び込みで入ってゆく。外交においていちばん過酷な方法であり、心臓が強くないとやっていけない仕事なのだ。断られたりなどして、引くようではいけない。
 自分の前に道はないということに重圧がかかってゆく。生きることは立ち上がることであり、仕事をするとは創造をしてゆくことなのだ。
 挨拶廻りをしてゆくが、相手側は皆同じではない。明るく穏やかに接してくれるとこちらとしてもそれなりに安堵するが、実はいろんな方がいる。何事か厳しいひとことでも言われると、辛い。そこの気持ちを整えつつ頑張っていくことで少しずつと慣れてくる。
 積み重ねてゆくとやがて希望の芽が出て来る。そうしてゆっくりとあちこちから反応が出て来て仕事が動きはじめてゆくのだった。

◎プロフィール

帯広在住。自営業。文筆家。
著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)
銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)
喜久屋書店/ザ・本屋さんにて発売中です。

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