綿・絹・麻
2015年4月 6日
以前お隣の庭に鮮やかなピンクの薄いシャツが物干し竿に揺れていた。その家のご夫婦は既に六十五歳を超えていて、普段は年齢相応な地味ないで立ち。和風の庭にひらめく派手なシャツは違和感がありその後何度か目にするたび気になっていた。ある日そのショッキングピンクのシャツを取り込む奥さんと私が挨拶を交わす機会があった。「派手でしょう?山に行く時主人が着ているのよ」と、恥ずかしそうに手の中に丸めた。「山専門の店では目立つ色のものが多くてね」
ご主人は若い時から山歩きを趣味としていたが、定年後はもっぱら奥さんと共に日帰りの山菜取り。汗をかいても直ぐに乾く素材のアンダーシャツを、これまた山男の息子が買ってくれたのだと話してくれた。
クールビズもすっかり定着した。一息つける涼しい場所が無いという状況でいかに快適に猛暑を乗り切るかが課題になっていて、速乾性の素材の服は毎年いい売れ行きのようだ。桜の開花情報と並行して、既に今年もコマーシャルに乗っている。体験型のディスプレイもあって《腕を通すとあら不思議。ひんやりとした感触の新素材》という商品は確かにひやりとしてうたい文句に偽りなしだ。
若い頃は光沢がありドレープの綺麗なブラウスを好んでいたが、十年ばかり前から化学繊維に弱くなった。身体が密閉されている様で肌触りも気持ちが悪い。服を買う時は値札の次に素材チェックが欠かせない。私が選択する素材は綿・絹・麻という天然素材が基本となっているが、科学の進歩は素晴らしく、手触りだけではよく解らない。特に靴下は厚みがある分手触りでの判別不可能で、細かい文字で書かれている素材表示に目を酷使する。綿百パーセントで、かつ気に入ったデザインの靴下を探すのは難しく、ポリエステル混合をつい買ってしまう。どうしても塩梅が悪い時は冬の靴下二枚ばきの外側に使うことにしている。
玄米も無農薬野菜も食べていないし、ヨガもやっていない。衣食住に拘るナチュラリストではないけれど、肌に触れるものは自然素材でなければいけない。夏は風の通るさらりとした麻がいいし、絹は軽くて香りがいい。綿は汗を吸ってくれる。最近は麻素材の服が安く買えるようになり、種類も増えてきたので嬉しい限りだ。欠点は着用した時落ち感がないので太って見えること。着やせするには何といってもポリエステルやレーヨンのトロンとした女性らしいブラウスだけど、女っぷりより着心地優先の五十代半ばってことで…
◎プロフィール
さえき あさみ
札幌市在住。福祉事業所勤務。
今年は地面を蹴って羽ばたく年に。
就寝前の読書は最近暫く敬遠していたフィクションの世界に浸っている。