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エッセイSP(スペシャル)

ほどほど

冴木 あさみ

2015年6月 1日

 ある朝、職場の食堂のテーブルの上で可愛い花が咲いていた。艶のいい濃い緑の葉が鮮やかな黄色い花をさらに引きたてている。ヤチブキ。エゾノリュウキンカという呼び名の方が私は好きだ。職員の一人が採ってきたとのことで、その日の給食に早速ヤチブキのおひたしが添えられた。翌日はフキとまる天の炒め物。季節の味だねと皆が喜んだ。
  その頃事業所の台所は山の物の差し入れであふれていた。毎日工夫して食事を提供している事業所に気持ちだけでも協力できればとの思いかもしれないし、単純に仕事仲間に美味しいものを食べてもらいたいという心遣いかもしれない。タケノコ、ワラビ、珍しいシドキ。時には手作りのフキノトウ味噌や行者にんにくのしょうゆ漬けを持ってきてくれる人もいた。
 ある日、大きな発泡スチロールの箱に山菜をたくさん入れて持ち込んだ職員がいる。
 「近所の人が貰ったはいいけど、若い人だから調理も出来ず途方に暮れていたところに運よく私が通りかかったわけよ」
 ウキウキした声で差し出した戦利品はウドとフキ。ウドは刻一刻としなびていく。帰宅支度をしていた調理担当者が悲鳴をあげてエプロン姿に戻り、理事長をはじめ職員が仕事そっちのけで夕方まで下処理を行った。初めてフキの処理をしたという理事長は指先が黒くなって洗っても取れないと困っている。家で料理をしたことがないという理事長に「家族に美味しいものを食べさせるために、奥さんたちはこうやっているんだよ」と、調理担当の女性が軽くふふんと言った。
 私は知り合いに誘われて数度しか山に入ったことがない。ベテランは穴場をよく知っていて誰にもその場所を教えないという。自分だけの秘密の場所。けれども他人様の土地だ。山菜採りの名人は自分が食べる分をはるかに超える量を他人様の山から失敬してくる。一年分を塩漬けにしたり、友人知人におすそ分け。貰う方は楽をして美味しい味覚にありつけるけれども、頂くたびに小さな疑問を抱く。
 「数年前までこの辺りはもっとたくさん採れたのに、誰も彼もごっそり採っていくからなあ。ほどほどに残さないとだめさあ」
 一度連れて行ってくれた近所のご主人がため息をついていた。しかし、彼も毎年車のトランクいっぱいに持ち帰り、大きな樽二つ三つ塩漬けにする。そして翌春のシーズンが来る前に「食べきれなかった分だけど」と言って前年のワラビを持ってきてくれるのだ。新物のワラビを入れる樽を磨くため私は協力してあげている。ほどほどという言葉がいかにあいまいなものかを、毎年この時期考えさせられるのだ。

◎プロフィール

さえき あさみ
札幌市在住。福祉事業所勤務。
今年は地面を蹴って羽ばたく年に。
就寝前の読書は最近暫く敬遠していたフィクションの世界に浸っている。

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